資産管理会社を活用した相続対策とは?メリットと注意点を解説

オーナー経営者にとって、悩ましい課題の一つが「相続」。さまざまな対策がありますが、不動産や株式を多く持つ場合、注目したいのが「資産管理会社」です。

この記事では、資産管理会社のメリットと注意点を紹介します。一定の資産をお持ちの方は、活用するか否かの参考にしてください。

※資産管理会社を使った「節税対策」については、別記事「資産管理会社を活用した節税対策とは?メリットと注意点を解説」をご覧ください。

資産管理会社とは?

資産管理会社とは、オーナーの資産管理を目的として設立される会社です。

たとえるなら、不動産や株などの資産をまとめて入れておく“箱”のようなもの。資産運用で得られる家賃や配当金なども、この“箱”を通じて受け取ります。

別名「プライベートカンパニー」と呼ばれるように、資産管理会社はまさに、オーナー個人のための会社。一般的な会社とは異なり、事業活動は行いません。

設立される目的として多いのは「節税」ですが、相続対策においても多くのメリットが期待できます。

資産が増えると相続税の負担も大きくなり、最大55%もの税金が課されます。不動産が多いなら「誰に・どう分けるか?」も頭の痛い問題です。

資産管理会社は、こうした問題を解決する一助となります。メリットが大きいなら活用を検討してみる価値はあるでしょう。

資産管理会社をつくるメリット

相続対策につながるメリットを紹介します。

(1)不動産の評価額が下がり、相続税が下がる

不動産を会社所有にして株式化することで、不動産の評価額が下がり、相続税を減らす効果が期待できます。

不動産を個人で所有している場合、相続時には「不動産」を相続します。ところが資産管理会社所有にしておくと「株式」を相続することになります。

この「不動産」ではなく「株式」で相続するというのがポイント。なぜなら評価額が「不動産 >  株式」となる可能性が高いためです。

そもそも法人が取得した不動産は、一定期間が経つと相続税評価を下げることが可能です。なぜなら3年超が経つと、

・建物・・・・・・・・・・・・固定資産税評価額

・土地・・・・・・・・・・・・路線価

で評価を行えるため。

ケースバイケースですが、建物は取得時の4~5割に、土地は時価の8割ほどに下がることが多々あります。詳しくは別記事「賃貸用不動産を活用した節税!収益を上げながら自社株対策」をご覧ください。

さらに、資産管理会社の純資産価額(相続税評価額)を計算する際、含み益があるものについては、含み益の37%を控除することができます。そのため、さらに評価額を下げることができ、相続税の節税効果が期待できるというわけです。

(2)相続の手続きが楽になる

相続手続きの手間やコストが減り、相続しやすくなることもメリットです。

個人所有の不動産を相続すると、登記の名義を変更しなくてはなりません。面倒ですし、登録免許税や司法書士への支払いなどの費用もかかります。

一方で、資産管理会社が所有する不動産であれば、会社の株式を相続することで、名義変更することなく不動産を相続できるため、圧倒的にスムーズに受け継ぐことが可能です。

また同様に、生前贈与もスムーズです。資産管理会社をつくって子ども名義にしておけば、不動産の贈与より手続きが楽ですし、不動産取得税もかかりません

(3)相続争いの防止になる

株式だと分割しやすく、相続争いの防止になることもメリットです。

相続財産が現金メインであれば「兄と弟で5,000万円ずつ」といったように、ある程度は容易に分けられるかもしれません。ところが不動産になると、事情が変わってきます。

多いのが「誰が何をもらうか?」「どう分けるか?」をめぐるトラブル。“同じぐらいの価格のマンション”を同等に渡すのは難しいでしょう。たとえほぼ同価格であっても、立地や築年数などの面で、当事者同士の合意形成に苦労する可能性があります。

かといって安易に持分を共有すれば、将来の建て替えや売却時に面倒ですし、より深刻な争いに発展する恐れもあります。

一方で資産を株式化して、たとえば100株発行しているとしましょう。すると「兄と弟で50株ずつ」としたり、「妻が50株、長男と次男で25株ずつ」としたり、数字で明確に分けることができます。

このように“相続争いの火種をつくらない”という意味で、資産管理会社は有効といえるでしょう。

(3)オーナーの資産圧縮につながる

オーナーの資産が増えるのを防げることも、注目したいメリットです。

資産が個人所有のままだと、運用によって得た収益が全て、オーナーのもとに入ります。各年度に所得に応じた所得税・住民税がかかりますし、オーナーの財産が増えてしまいます。そのまま増え続けると、相続する資産が増え、相続税が高くなってしまいます。

その対策として使えるのが資産管理会社です。

たとえば資産管理会社をつくって、そこにオーナーが元々所有していた株を移転しておきます。子どもを役員にしておけば、会社に入ってきた配当金をもとに、役員報酬として払うことができます。

するとオーナー自身の資産増加を鈍らせることができるため、相続税を抑えることが可能です。

(4)相続税のための“現金の心配”がない

土地や建物などの資産を株式化しておくと、相続税を支払う際に現金の心配がないのもメリットです。

相続税の納付期限は、相続人となった日から10カ月以内。しかも現金で納付しなければなりません。多くの不動産を相続すると、費用の工面が難しい場合があります。

たとえば「自分の貯金を切り崩す」「それでも足りないなら売却して現金化する」などの方法がありますが、必ずしも予定通りのスケジュールで売却できるとは限りません。

資産管理会社に資産を移しておけば、株式を相続することで、実質的に土地や建物を相続することになります。すると株式評価額に基づく納税をするだけでよく、相続のために多額の現金を用意する必要はありません。

特に「路線価の高い土地をたくさん持っている」「築年数の浅い建物を持っている」という方には有効な相続対策です。

資産管理会社をつくる際の注意点

ここまで資産管理会社をつくるメリットを見てきました。次は注意点を見てみましょう。

(1)「小規模宅地等の特例」が受けられなくなる

個人所有の土地については、相続の際に「小規模宅地等の特例」を使える場合があります。

小規模宅地等の特例とは、個人が保有する土地の評価を最大80%下げることができる制度のこと。一定の要件を満たし、この制度が利用できれば、土地にかかる税金を大幅に減らすことができます。

ところが、資産管理会社が土地を所有していると、この特例は適用されません。特例を使える土地は個人所有のままにして、建物だけを資産管理会社に移すというのも一つの手段です。

「小規模宅地等の特例」については、次の国税庁のページでご確認ください。

(参考)国税庁「No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」

(2)会社の設立費用がかかる

資産管理会社をつくるには、会社設立のための費用が必要です。目安としては、

・株式会社・・・・・・・・約20万円

・合同会社・・・・・・・・約7万円

かかります。また、個人名義の不動産などを資産管理会社に移す場合、オーナーには「譲渡所得税」(最大39%)、資産管理会社には「登記費用」も必要です。

(3)会社の維持費用がかかる

会社を運営するためには、次のような費用がかかります。

▼税金

たとえ赤字でも、法人住民税の均等割(最低7万円)を毎年納税する必要があります。

 

▼税理士費用

法人の決算は複雑ですので、税理士に依頼するのが現実的です。そのため税理士費用がかかります。

 

▼社会保険料

親族を雇用して給与を支給する場合、社会保険料を折半して負担することになります。

他にも、事務所を設置するなら賃料や光熱費、通信費などもかかりますので、留意してください。

(4)会社保有の資産は自由に使えない

別名「プライベートカンパニー」と呼ばれますが、いったん会社の資産になると、オーナーでも自由に使うことはできません。

たとえば、オーナーが資産管理会社のお金を使いたい場合。原則として会社から個人へ資金を動かす必要があります。その際には、役員報酬や配当の形で資金を移転することになるため、課税対象となります。

再び個人所有に戻すとなると、手間もお金もかかります。資産を移転する場合は、慎重に検討することをおすすめします。

(5)経営権が分散する

株式を分けるということは、ある意味では経営権の分散を意味します。お子さまが若い場合は特に、株式を渡すことを不安に思う方もいるでしょう。

この場合、1株だけを「議決権株」にして、残りは議決権のない「無議決権株式」におくという方法があります。

お子さまに「無議決権株式」を渡し、オーナー自身が議決権株を握っていれば、経営の手綱を握ったままいられます。そのため「子どもが会社を自由にするのでは?」といった心配をしなくて済みます。

相続対策に資産管理会社を活用すべき人は?

ここまで見てきたように、資産管理会社を設立することで、相続税を下げ、相続のための手間やコストも削減でき、争い防止にもなるといったメリットが得られます。

ただし、設立や維持のコストがかかりますし、資産を自由に使えなくなります。場合によっては特例が使えなくなる点も注意が必要です。

こうした両面をふまえると、

・多額の不動産収入がある人

・多額の株式配当金があるオーナー社長

といった方が、相続税を意識して資産管理会社を活用すべき人と言えるでしょう。

まとめ

特に一代で資産を築いた成功者は、所得税・法人税の節税に最初に取り組むため、相続対策は遅れがちになる傾向があります。長期的な資産防衛もケアしつつ、手を打つようにしましょう。

気になることがあれば、ウェブサイトからお問い合わせください。