資産管理会社を活用した節税対策とは?メリットと注意点を解説

「資産管理会社をつくると税金が減らせる」という話を聞いた……そんな経営者も多いことでしょう。一体なぜ・どのように節税できるのでしょうか?

この記事では、「節税目的で資産管理会社を活用したい」と考えている方に向けて、設立のメリットや注意点を紹介します。

※資産管理会社を使った「相続対策」については、別記事「資産管理会社を活用した相続対策とは?メリットと注意点を解説」をご覧ください。

資産管理会社とは?

資産管理会社とは、オーナーの資産管理のためにつくられる会社です。

不動産や株などの資産をまとめて入れておく“箱”のようなものと考えると分かりやすいでしょう。そして資産運用から得られる家賃や配当金などの収益も、この“箱”を通じて受け取ります。

なぜ“箱”をつくるかというと、節税メリットが期待できるためです。

個人所有の資産が多いと所得が増え、税金が高くなってしまいます。会社に資産を移した方が税制上のメリットが期待できることから、資産管理会社をつくる人が増えているのです。

なお資産管理会社は、あくまで個人のための会社。通常の会社のように何か事業を行うわけではないため、別名「プライベートカンパニー」とも呼ばれています。また通称名ですので、一般的には「株式会社」「合同会社」のような形で設立します。

つくる際はメリットだけではなく、注意点も把握しておくことが大切です。それぞれ見てみましょう。

資産管理会社をつくるメリット

まずは節税につながるメリットを紹介します。

(1)税率を下げられる

法人化することで、税率が下がるケースが多いのは大きなメリットです。税率が下がれば税額も下がり、節税効果が期待できます。

なぜ税率が下がるかといえば、課税種類が「所得税」から「法人税」に変わることが大きなポイント。他にも次のような違いがあります。

▼個人名義

・所得税と住民税、個人事業税がかかります。所得が増えるほど所得税の税率は上がり(最高税率45%)住民税は10%個人事業税は3~5%

・全て合わせると最大で60%弱です。

▼法人名義

・法人税と法人住民税、法人事業税がかかります。

・法人税は会社規模によって一定の税率が定められており、全て合わせると中小企業の実効税率は33.58%です。

つまり、個人か法人かによって最大税率に30%近い開きが生じるということ。実際には控除もありますので単純比較はできませんが、これは大きな違いではないでしょうか。

たとえば不動産所得が1億円ある場合、個人で受け取ると約5,500万円の税金がかかります。ところが法人化しておけば約3,300万円。賃料総額にもよりますが、法人にしておいたほうが手元に残るお金が増えるケースが多々あるのです。

すでに年収1,000万円程度の高給を得ている会社員の場合も、個人での副業を行うと高い税率が適用されますので、資産管理会社の利用が有効です。

(2)所得分散で、さらに税率を下げられる

家族への給料などの形で所得を分散し、各人の税率を下げることでトータルの税額を下げられることもメリットです。

個人で資産を保有していると、収入が一人だけに集中します。たとえば不動産をたくさん所有していれば、オーナーだけが多額の家賃収入を受け取る形になります。

すると所得が増え、適用される税率も高くなり、税負担が大きくなってしまいます。

一方で法人化すれば、オーナー個人ではなく、会社に収入が入ります。すると配偶者や子ども、両親などを従業員として、会社から給料や役員報酬を払うことができるようになります。つまり所得を分散できるということです。

所得を分散することで、一人一人の所得が下がります。そのため適用される税率が下がり、結果として節税につながるのです。

(3)経費の幅が広くなる

法人化することで、経費として計上できる範囲が広がるのも、節税する上での大きなメリットです。

個人事業では経費にできず、法人だと経費にできるものが結構あります。そのため資産管理会社をつくったほうが、節税につながるケースが多々あります。

法人の場合、事業活動に直接必要な費用だけではなく、間接経費も一部認められます。たとえば、次のようなものも経費として計上可能です。

・社宅として借りている自宅の家賃

・社用車として購入した車の維持費

・仕事のための飲食費

・旅費規程として定めている日当

・雇用している親族への退職金

・一部の生命保険料

こうしたものを経費にできれば所得が下がり、税率も下がります。特に、社宅の家賃は比較的高額になりがちですから、インパクトが大きいのではないでしょうか。

(4)社会保険料を低減できる

社会保険料を低減できることもメリットです。

個人事業主であれば通常、所得に応じた社会保険料を徴収されます。ところが資産管理会社をつくって社会保険に加入すると、法人からの役員報酬に応じた社会保険料を支払うことになります。この仕組みをうまく活用して、資産管理会社から低額の役員報酬を受け取るようにすれば、社会保険料を削減できるということです。

たとえば、月の所得が200万円ある場合。法人から低額の役員報酬を支給すれば、月額の保険料負担を約5分の1に削減できます。

・個人事業のみ    ・・・・・・10万円強
・法人から低額報酬あり・・・・・・2万円強

※内訳は、個人は「国民年金16,520円/健康保険・介護保険約87,000円」、法人は役員報酬月額6万円の想定で「厚生年金16,520円/健康保険5,800円」。

社会保険は税金ではありませんが、実質的には“税金”と同じ。こうして社会保険料を低減できることも、ある意味では節税メリットといえるでしょう。

(出典)全国健康保険協会(協会けんぽ)「令和5年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表」(東京都のテーブル)

(5)損益通算の幅が広くなる

資産管理会社をつくると、経費だけではなく損益通算の幅も広くなる点もメリットです。

「損益通算」とは、年間の利益と損失を合計すること。違う言い方をすれば、赤字の所得を黒字の所得から差し引くことを意味します。

たとえば個人で資産を持っていて、「不動産所得が2000万円の黒字、事業所得が200万円の赤字」としましょう。

この場合、損益通算で相殺することで「所得1,800万円」に圧縮できます。すると課税される所得が減るため、節税できるというわけです。

個人の所得には、不動産所得や事業所得をはじめ10種類あります。ところが個人だと、損益通算できる所得は限られています。つまり“損益通算できない所得もある”ということです。

▼損益通算できる所得

・不動産所得(土地に係る利子以外)

・事業所得

・譲渡所得(不動産・株式等以外)

・山林所得

▼損益通算できない所得

・利子所得

・配当所得

・給与所得

・退職所得

・譲渡所得(不動産・株式等)

・一時所得

・雑所得

このように、たとえば不動産所得は損益通算できますが、譲渡所得はできません。そのため株の売買で赤字を出しても、損益通算はできないのです。

一方で法人の場合、所得に分類がないため、全ての損益が通算されます。「株式の運用で損失を出した」ことによる赤字も差し引くことが可能。この点でも法人化した方が、節税効果が見込めるといえるでしょう。

(6)損失の繰越控除の年数が延びる

法人にすると損失の繰越欠損金控除の年数が伸びることも、節税面でのメリットです。

利益より損失の方が大きい場合、損益通算すると「マイナス」になります。このとき、確定申告をすれば一定期間、損失を繰り越すことができます。これを「損失の繰り越し控除」といいます。

繰越控除ができる期間は、個人と法人では異なります。

・個人・・・・・・3年

・法人・・・・・・10年

このように資産管理会社などの法人であれば、最長10年もの繰り越しが認められるのです。

たとえば、不動産投資で築古の不動産を取得する場合、高額な初期費用を計上する可能性があります。スタート時に大きな損失を出すと、減価償却費が大きい場合には3年では控除しきれないケースもあるでしょう。10年も繰り越しができるのは、法人ならではのありがたい仕組みではないでしょうか。

資産管理会社をつくる際の注意点

ここまで資産管理会社をつくるメリットを見てきました。次は注意点を見てみましょう。

(1)会社の設立費用がかかる

新しく会社をつくるわけですから、設立費用が必要です。目安としては、株式会社であれば約20万円、合同会社でも約7万円かかります。

また、個人名義の不動産などを資産管理会社に移す場合、オーナーには「譲渡所得税」(最大39%)、資産管理会社には「登記費用」も必要です。

(2)会社の維持費用がかかる

会社の運営には、一定のコストがかかります。主なものは次の通りです。

▼税金

たとえ赤字であっても、法人住民税の均等割(最低7万円)を毎年納税する必要があります。

▼税理士費用

法人の決算は複雑で、自力でまかなうことはほぼ不可能です。税理士に依頼するのが現実的であり、税理士費用が必要です。

▼社会保険料

親族を雇用して給与を支給する場合、社会保険料を折半して負担することになります。

他にも、事務所を設置する場合には賃料や光熱費、通信費などがかかりますので留意してください。

(3)会社保有の資産は自由に使えない

会社の資産になると、オーナーでも自由に使うことはできません。

たとえば、オーナーが資産管理会社のお金を使いたい場合は、原則として会社から個人へ資金を動かす必要があります。その際には、役員報酬や配当の形で資金を移転することになり、課税されます。

再び個人所有に戻すとなると、手間もお金もかかります。資産を移転する場合は、慎重に検討することをおすすめします。

節税に資産管理会社を活用すべき人は?

ここまで見てきたように、資産管理会社を設立する主なメリットは、所得税や住民税などの節税効果が期待できること。ただし設立や維持のコストがかかり、資産が自由に使えなくなる点は注意が必要です。

こうした両面をふまえると、

・多額の不動産収入がある人

・多額の株式配当金があるオーナー社長

・副業を行う高給サラリーマン

・副業を行う個人事業主

といった方が、節税に資産管理会社を活用すべき人と言えるでしょう。

まとめ

資産管理会社には、税率・所得分散・対象経費・社会保険料・損益通算対象・繰越控除などの幅広いメリットがあります。ただしデメリットもあるので、総合的に判断した上で活用を検討しましょう。

気になることがあれば、ウェブサイトからお問い合わせください。