経営革新計画とは?概要やメリット、承認率、審査のポイントを紹介

「経営革新計画」をご存じでしょうか?承認されると、資金調達や販路開拓などの面で、様々な公的支援が受けられます。新たな取り組みで勝負に打って出たいと考えるなら、ぜひ活用を検討してください。

この記事では、経営革新計画の概要やメリット、承認率、審査のポイントなどを解説します。

経営革新計画とは?

「新商品のアイデアがある」「新しいサービスを展開したい」とお考えなら、おすすめしたいのが「経営革新計画」の作成です。

自社で作成する一般的な「事業計画書」との大きな違いは、“公的なお墨付きを得た計画書”であるということ。チャレンジしたい内容を計画書にまとめ、国からの委託を受けた各都道府県より承認されると、様々な支援が受けられるのです。

経営革新計画を策定するには、確かに時間や労力がかかります。ですが、事業を現状から将来の“あるべき姿”に到達させるためには、計画がなくてはなりません。

経営革新計画を策定すること、それ自体で現状の課題が見えたり、目標達成への道筋が明確になったりと、たくさんのメリットがあります。

さらに、支援施策にも魅力的なものが多く、新事業の実現を力強く後押ししてくれます。“急がば回れ”の気持ちで、ぜひチャレンジしてください。

承認を受けるための要件

経営革新計画の承認を受けるには、「新事業活動に取り組む」「経営の相当程度の向上を達成できる」という2つの要件があります。

(1)新事業活動に取り組む計画であること

承認を受けるには、次の5つのいずれかに相当する必要があります。

・新商品の開発または生産
・新役務の開発または提供
・商品の新たな生産または販売の方式の導入
・役務の新たな提供の方式の導入
・技術に関する研究開発及びその成果の利用

この中で、「新商品」「新役務」などの受け止め方には注意を要します。

何も「当社が世界で初めて取り組みます!」というレベルでの新規性が求められるわけではありません。自社として初めての取り組みであり、かつ、同業の中小企業において普及状況が高くない取り組みであれば、「新商品」「新役務」として認められます。

(2)経営の相当程度の向上を達成できる計画であること

経営革新計画の計画期間は3~8年間で設定します。計画期間は「研究開発期間」と「事業期間」に分けられます。このうち事業期間は3~5年間で設定しますので、研究開発期間は0~5年間の範囲で設定することになります

経営革新計画では、事業期間内に、数値目標(指標1および指標2の両方)をクリアできる計画であることが必要です。

なお、「事業期間」「研究開発期間」は、2020年10月1日施行の中小企業成長促進法の改正によって新たに設定された考え方で、それ以前は「計画期間」という考え方のみでした。

(引用)東京都産業労働局「記載要領」

(注)

・付加価値額 = 営業利益 + 人件費 + 減価償却費

・一人当たりの付加価値額 = 付加価値額 / 従業員数

・給与支給総額 = 役員並びに従業員に支払う給料、賃金及び賞与 + 給与所得とされる手当

政府は、「良質な雇用の創出」につながる「付加価値額」に特に注目する傾向があります。経営革新計画においても例外ではありません。

経営革新計画のメリット

経営革新計画の承認を受けると、様々な支援策が受けられるようになります。主なメリットを紹介します。

メリット(1)資金調達(融資や出資)を受けやすくなる

経営革新計画の承認を得ていると、資金調達の面で優遇措置が受けられます。

▼普通保証の「別枠」が利用できる

金融機関から融資を受ける際、信用保証協会が債務保証を行う「信用保証」。経営革新計画が承認されると別枠が設定され、より大きな融資を受けやすくなります。

(引用)中小企業庁「経営革新計画進め方ガイドブック」

このように、別枠の金額は通常枠と同額。つまり、信用保証の枠が2倍に広がるということです。

▼研究開発費の保証限度額(保証枠)が1.5倍に!

新商品開発に欠かせないのが研究開発費。経営革新計画では、新事業開拓保証の限度額も引き上げられます。

(引用)中小企業庁「経営革新計画進め方ガイドブック」

2億円から3億円(組合の場合は、4億円から6億円)へ、つまり1.5倍に引き上げられるということ。研究開発型のスタートアップなどを意識した制度といえそうです。

▼低利で設備・運転資金の融資を受けられる

日本政策金融公庫から、設備・運転資金の融資を受ける際、金利が優遇されます。

(引用)中小企業庁「経営革新計画進め方ガイドブック」

新分野への展開や事業再構築には、注目されている事業再構築補助金だけではなく、融資の面からも支援がなされる点に注目したいところです。

▼投資を受けやすくなる

経営革新計画が承認されると、投資も受けやすくなります。

例えば、「創業間もない」もしくは「成長初期段階」の有望なベンチャー企業などは、企業支援ファンドからの投資が期待できます。

また中小企業に関しては、中小企業投資育成株式会社からの投資が制度化されています。

メリット(2)販路開拓のサポートが受けられる

新しい商品やサービスを開発した場合、販路開拓も欠かせません。経営革新計画が承認されていると、販路開拓のサポートも受けられます。

▼企画策定からテストマーケティング支援、フォローまで!

どれほど画期的な新商品や新サービスを生み出しても、最初はブランド力もなく、知名度も低い状態です。そんな中で、販路を切り拓くのは容易なことではありません。

経営革新計画の承認を受けた事業者は、販路開拓コーディネーターによる支援が受けられます。

(引用)中小企業庁「経営革新計画進め方ガイドブック」

▼「新価値創造展」出展への道も開ける

中小企業基盤整備機構が主催する「新価値創造展」出展への足がかりにもなります。

新価値創造展とは、中小企業の優れた製品・技術・サービスを紹介するマッチングイベント。経営革新計画が承認されると、新価値創造展への出展企業を決める審査において有利となります。

メリット(3)補助金申請でも加点が得られる

一部の補助金の審査においては、経営革新計画が加点対象となり、採択率を高めることができます。

例えば、設備投資に対して最大2000万円(グローバル展開型は3000万円)の補助が受けられる「ものづくり補助金」(正式名称:ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金)。経営革新計画の承認を受けていると、加点対象となります。

(関連)【2022年最新】「ものづくり補助金」の補助額・対象など変更点まとめ

経営革新計画の活用事例

経営革新計画を活用して、どのような事業者がどのような新規事業を展開しているのか、具体的な事例を紹介します。

(1)総合食料品小売店が飲食事業(ラーメン店)に進出(岩手県)

岩手県花巻市の郊外に立地する総合食料品小売店。酒類の安売りを目玉に一定の支持を得てきたが、商圏内に大型量販店や大手コンビニエンスチェーン加盟店が出店し、競合が激化。このため収益力に大きな影響が及び、現状の打開策を模索していた。 

そんな中、近隣に評判のラーメン店があり、店主が高齢であることと後継者がいないことから店を継承することに。

経営革新計画の承認を受けたおかげで、低利での設備資金の借入が実現。より広い土地に移転して駐車スペースも確保して、新たに開店。販売食数は順調に伸び、当初計画を上回っている。

(出典)中小企業庁「経営革新事例集」

(2)そうめん製造会社による、業界初細物タイプの冷凍麺開発(長崎県)

島原手延べ素麺を独自ブランドとして販路拡大を行い、全国で販売。特殊製法塩を使った農水産加工品なども販売してきた。ところがギフトでの素麺需要が極端に減り、より付加価値の高い商品開発が急務となっていた。

乾麺は食すまでに、「茹で時間をはかる」「水洗いをする」など手間がかかる。そこで、冷凍の塊をお湯で戻し、冷水でしめるだけで食べられる冷凍麺を開発した。

茹で時間を気にする必要がなく、人手も必要とせず、しかも麺の延びも遅いため、業務用としての需要が望める。また、和食に限らず洋食や中華など、バラエティに富んだ使い方が可能であるため、販路拡大が可能となった。

(出典)中小企業庁「経営革新事例集」

(3)印刷会社が、学校アルバム制作に新システム導入

従来は一般商業印刷に加え、北陸地域や首都圏の約1500校を対象として、学校アルバム制作を実施。ところが少子化の影響により、学校アルバムを小ロットで制作することが増え、短納期化やコスト低減を図ることが必要となった。

そこで、印刷技術において近年中核となっている「CTP」に着目。オンデマンド印刷機とCTPシステムを導入した。

システム導入により、高速化や省力化が実現。小規模学校に向けてのアルバム制作や、学級別、サークルや学科別などのアルバムを、新商品として提供できる道が開けた。

(出典)(出典)中小企業庁「経営革新事例集」

経営革新計画の承認率は?通過のためのポイントは?

経営革新計画の承認率は公表されていません。そのため明確な数字は分かりませんが、おおむね「10〜30%」と言われています。

ライバルがひしめく中で承認を受けるためには、いかに計画内容を充実させるかが重要。審査で重視されるのが、「新規性」「実現性」という2つのポイントです。

(1)新規性

既存事業と比較して一体どこが新しいのか、明確に示すことが重要です。他社と比較したときの違い、ターゲットの違い、販路や販売方法の違いなどを説明します。

競合との違いを視覚的に表すためには、比較表やポジショニングマップを活用することが有効です。

(2)実現性

「いつ・どこで・何を・どのように」取り組むのかを明確にして、実現性をアピールすることが必要です。具体的な新事業を達成するために「人・モノ・金」などの経営資源が揃っているかを盛り込むこともポイントです。

自社だからこそできる取り組みであることを、論理的にきちんと説明し、審査員に伝えて、承認を得ましょう。

まとめ

経営革新計画には一定のハードルがありますが、メリットも大きい制度です。ぜひ一度、検討してみてください。

支援制度には、申請の要件や定量目標などの細かいルールがあります。きちんと満たすように心がけることが大切です。気になることがあれば、ウェブサイトからお問い合わせください。