事業承継をきっかけに、中小企業などが経営革新や事業転換を行う場合、「事業承継補助金」の対象となる可能性があります。
補助額は最大1200万円。事業承継は「経営者交代」「M&Aによる事業再編・事業統合」どちらも対象で、近年の採択率は7割超。コロナ禍でM&Aも進む中、注目を集める補助金の一つです。
事業承継補助金の概要や採択率、事例、申請のポイントなどを紹介します。
※事業承継補助金は令和3年(2021年)募集より、「事業承継・引継ぎ補助金」へと引き継がれる見込みです。詳細情報に関する記事は、後日アップします。
事業承継補助金とは?
事業承継補助金とは、事業承継を契機として、新たなチャレンジをする中小企業を支援するための制度です。
中小企業を悩ませる後継者不足。やむを得ず廃業に追い込まれるケースが増えました。日本の地域産業を支える中小企業の存続は、地域経済を揺るがしかねません。
そこで、中小企業が事業承継をスムーズに行うための支援策として、平成29年(2017年)に生まれたのが事業承継補助金です。
事業承継補助金は、最大で1200万円。事業承継のスタイルは親族間のみならず、外部人材の登用やM&Aなども対象です。
事業承継補助金は、新分野への展開や業態転換、事業再編などに対して交付されます。新しい事業展開を考える後継者にとって、大きな後押しです。
また、コロナ禍によって経済環境に大きな変化が生じた日本。今後ますますM&Aが進むことが予想されます。廃業を検討している中小企業にとって、有利な条件で譲渡できるチャンスと言えるでしょう。
事業承継補助金の対象
※以下の情報は令和2年(2020年)に公募された「令和元年度補正事業承継補助金」に関するものです
事業承継補助金の対象となるのは、次の7つの要件を満たし、かつ事業承継の要件を満たす中小企業および個人事業主と定められています。
7つの要件
事業承継補助金を受け取るには、次の7つ要件を満たす必要があります。
・日本国内で事業を営んでいる
・地域経済に貢献している
・暴力団などの反社会的勢力ではない、かつ関係もない
・法令順守上の問題を抱えていない
・経済産業省から補助金指定停止(または指名停止)措置が講じられていない
・匿名性を確保しつつ公表される場合があることに同意する
・補助事業の調査やアンケートなどに協力できる
おおむねクリアできる基本的な要件ばかりです。ポイントは二つ目の「地域経済に貢献している」という点でしょう。
例としては「地域の雇用の維持・創出を行っている」「近隣からの仕入れが多い」「地域の特産品活用に取り組んでいる」などが挙げられます。
中小企業の定義
補助金の対象となる中小企業の定義は、中小企業基本法第2条に準じて、次の通り定められています。
(引用)事業承継補助金「補助対象者」
https://www.shokei-hojo.jp/applicant/subsidized.html
※次の業種については定義が異なります。
・ゴム製品製造業(一部を除く)⇒資本金3億円以下または従業員900人以下
・旅館業⇒資本金5千万円以下または従業員200人以下、
・ソフトウエア業・情報処理サービス業⇒資本金3億円以下または従業員300人以下
7つの要件と中小企業の定義について、詳しくは事業承継補助金のサイトで確認できます。
(参考)事業承継補助金「補助対象者」
https://www.shokei-hojo.jp/applicant/requirement.html
事業承継補助金の種類
事業承継補助金には、「I型」「Ⅱ型」と呼ばれる2種類があります。
・【I型】後継者承継支援型
・【Ⅱ型】事業再編・事業統合支援型
それぞれ対象となるケースが異なります。ポイントを見てみましょう。
Ⅰ型「後継者承継支援型」
中小企業の代表者の交代をきっかけに、後継者が新たな取り組みを行う際に交付されます。なお先代と後継者は、親子や兄弟などの親族である必要はありません。外部人材が引き継いだ場合も含まれます。
<対象となるケース>
親族内承継・社内事業承継・外部人材招聘など
Ⅱ型「事業再編・事業統合支援型」
M&Aによる事業再編や事業統合などの後、後を継いだ事業者が新たな取り組みを行う際に交付されます。
<対象となるケース>
事業譲渡・会社分割・株式交換・株式移転・株式譲渡など
どちらの型で申請できるかの確認は、「申請類型早わかりフローチャート」が便利です。ページを開くと簡単な質問が順次提示され、答えていくと申請できる型が分かります。
(関連)事業承継補助金HP「申請類型早わかりフローチャート」https://www.shokei-hojo.jp/cgibin/flowchart/
事業承継補助金の補助率・上限
事業承継補助金は、中小企業が承継後に事業を展開する上で、必要となる経費の一部を補助するものです。補助率と上限について紹介します。
補助率
補助率は、補助対象となる経費のうち、「3分の2以内」または「2分の1以内」です。
事業承継補助金は、新たなチャレンジを支援する制度のため、経費として認められるのは、事業の活性化につながるもの。次のような内容を伴うものが対象となります。
・新商品の開発または生産
・新役務の開発または提供
・商品の新たな生産または販売の方式の導入
・役務の新たな提供の方式の導入
・事業転換による新分野への進出
・その他、事業の活性化につながる取組(販路拡大や新市場開拓、生産性向上など)
例えば「店舗開設のための外装・内装費」「新製品を製造するための設備投資費」「新規事業に携わる従業員にかかる人件費」といったものが経費の対象です。
上限
事業承継補助金の上限は、型によって異なります。
(引用)事業承継補助金「補助対象について」
https://www.shokei-hojo.jp/applicant/subsidized.html
なお一点注意したいのが、補助金が交付されるタイミング。
事業承継補助金が手元に届くのは、対象事業が完了してから。要は「後払い」です。新規事業を展開するにあたり、場合によっては借り入れを行い、自己調達する必要がある点を頭に入れておきましょう。
事業承継補助金の採択率
事業承継補助金の採択率とは、申請した総数のうち、どれだけ採択されたかを示す数字です。
初年度の平成29年(2017年)は予算が少なかったこともあり、採択率はわずか約13%。申請した517件のうち、審査を通過したのは65件だけでした。
ところが翌年、平成30年(2018年)には予算も増え、採択率は一気に上昇。一次公募は「約78%」、二次公募では「約82%」。8割近くが事業承継補助金を受け取りました。
なお、令和2年(2020年)に申請受付が行われた「令和元年度補正予算」の事業承継補助金においても、次のように比較的高い採択率となっています。
・【Ⅰ型】後継者承継支援型・・・・・・・・・・・・約77%(455件のうち350件)
・【Ⅱ型】事業再編・事業統合支援型・・・・約61%(194件のうち118件)
(参考)事業承継補助金「交付決定を受けた方へ」https://www.shokei-hojo.jp/applicant/adoption.html
Ⅰ型とⅡ型と合わせた採択率は、約71%。およそ7割という高い数字です。
およそ7割と採択率が高い事業承継補助金ですが、申請したら必ず通るわけではありません。審査通過には、事業承継後の事業内容を分かりやすく、ポイントを押さえて伝える事業承継計画書の作成が欠かせません。具体的なポイントを次項で紹介します。
審査通過のための申請のポイント
申請する際は、「事業承継計画書」を提出します。審査に通るためには当然ながら、実現可能な内容であることが大前提です。さらには「独創性がある」「収益性が高い」「継続が見込める」といった点が評価のポイントとなります。
事業承継補助金においては「地域への貢献」という点が、加点要素となることが見込まれます。事例を参考にしながら、事業承継計画書を作成しましょう。
事業継承補助金の事例は、ホームページで見ることができます。一例を挙げると、
・伝統工芸品熊野筆の生産性向上を図る新製造プロセスの開発(製造業)
・商品の付加価値を上げ、東北伝統の菓子の販売拡大の実現(卸売・小売業)
・新規運転代行の開設による販売拡大(運輸・郵便業)
・ショールーム新設による個人客へのオリジナル家具受注拡大(建設業)
・地域ニーズに応える健康を意識したダイニングカフェの経営(宿泊・飲食サービス業)
などがあります。
それぞれの事例は、詳細を見ることができます。取組内容はもちろんのこと、支援機関から受けたサポート内容、従業員数、補助対象経費の内訳、承継前の課題、承継者や被承継者からのひと言コメントなども掲載されています。ぜひ参考にしてください。
(関連)事業承継補助金事務局「事業承継補助金事例」https://www.shokei-hojo.jp/cgibin/case/
なお、補助金の交付を受けた後、5年間は事務局に状況を報告する必要があります。評価につながる計画書を作り、かつ計画通りに事業を進めるために、事業承継やM&Aに詳しい専門家と相談しながら準備を進めるのも一つの手段です。
まとめ
中小企業の後継者不足が課題となる日本社会。さらには新型コロナウイルス感染症の影響でM&Aも進む中、今後も政府による事業承継への支援は拡大することが見込まれます。交付対象となるなら今後に向けて、準備する価値はあるでしょう。
ただし事業承継補助金は令和3年(2021年)募集より、「事業承継・引継ぎ補助金」へと引き継がれる見込みです。詳細情報は後日アップしますので、続報をお待ちください。