優秀な人材を確保したい、だけどうまく助成を活用して現預金を死守したい……そんなときに頼りになるのが「助成金」です。
この記事では、「中途採用」「若者・未経験者の採用」「その他」という3つのパターン別に、主な助成金を紹介します。
※記事内で紹介する助成金は、事業所が「雇用保険適用」であることが条件です。
(1)中途採用する
中途採用をした場合は、次の助成金が受け取れる可能性があります。
・労働移動支援助成金(早期雇入れ支援コース)
・中途採用等支援助成金(中途採用拡大コース)
・中途採用等支援助成金(UIJターンコース)
・特定求職者雇用開発助成金(就職氷河期世代安定雇用実現コース)
一つずつ紹介します。
1.労働移動支援助成金(早期雇入れ支援コース)
ポイント
・「再就職援助計画」の対象者を、離職から3カ月以内に雇用
・助成額は通常30万円
・賃金を前職より5%以上アップすると50万円
[1]労働移動支援助成金(早期雇入れ支援コース)とは?
中途採用した人材が、
・事業規模の縮小や事業転換などで離職を余儀なくされた
・「再就職援助計画」の対象
・離職から早期(3カ月以内)に採用した
といった条件を満たしている場合に活用できる助成金です。
より高い賃金(前職の5%以上アップ)で雇い入れた場合は、加算もあります。部門閉鎖などで退職を余儀なくされた優秀な人材を、高めの給料を支払ってでも引っ張りたい事業主には、うってつけの助成金です。
[2]主な条件は?
助成金を受け取るには、次の条件を満たす必要があります。
(1)労働者が「再就職援助計画」の対象である
(2)離職日の翌日から3カ月以内に、雇用保険被保険者かつ期間の定めのない労働者として雇い入れた
(3)雇い入れ日から6カ月を超えて引き続き雇用している
気になるのは(1)の「再就職援助計画」でしょう。これは厚生労働省による再就職支援のための制度です。
事業規模の縮小・事業転換により、大量の離職者(1ヵ月以内に30人以上)が発生する場合、事業主は「再就職援助計画」を作成してハローワークの認定を受ける必要があります。
当計画の対象となった労働者は、「再就職援助計画対象労働者証明書」を持っています。採用応募時や面接時に証明書の有無を確認してください。
詳しくは厚生労働省「『再就職援助計画』と『大量離職届・大量離職通知書』」に説明があります。
[3]助成額は?
助成額は一人あたり通常30万円です。賃金を前職の5%以上アップした場合は、20万円が加算され50万円になります。
40万円が受け取れる「優遇助成」や人材育成による「訓練経費助成」などについては、厚生労働省「労働移動支援助成金ガイドブック(早期雇入れ支援コース)」をご確認ください。
(公式サイト)厚生労働省「労働移動支援助成金(早期雇入れ支援コース)」
2. 中途採用等支援助成金(中途採用拡大コース)
ポイント
・中途採用を一定以上増やすと対象
・助成額は50万円
・「45歳以上」かつ「賃金5%以上アップ」だと100万円
[1] 中途採用等支援助成金(中途採用拡大コース)とは?
中途採用者の雇用管理制度を整備し、中途採用を増やすと受け取れる助成金です。
特に45歳以上の採用を増やし、賃金アップ(5%以上)すると、助成額は100万円。専門的な知識を持つベテラン採用を考えているなら、うってつけの助成金です。
[2]主な条件は?
助成金を受け取るには、次の条件を満たす必要があります。
(1)次の全ての条件を満たす労働者である
・雇用保険の一般被保険者または高年齢被保険者として雇われた
・期間の定めがない(パートタイムを除く)
・雇い入れ日の前日から起算してその日以前1年間に
⇒その事業所での就労(出向、派遣、請負、委任含む)経験がない
⇒申請事業主と密接な関係にある事業主に雇用されていない
(2)雇い入れる前に
⇒中途採用計画を作成し、労働局に提出
⇒中途採用に関する情報を公表(常時雇用が300人を超える場合のみ)
(3)雇い入れた後、中途採用者の雇用管理制度の整備
(4)中途採用計画期間中に、対象労働者を2人以上雇い入れる
(2)の中途採用計画は、中途採用等支援助成金(中途採用拡大コース)各様式ダウンロードからダウンロードできます。
(3)の雇用管理制度の整備とは、労働時間・休日、雇用契約期間、評価・処遇制度、福利厚生などを指します。
詳しくは厚生労働省「中途採用等支援助成金ガイドブック」をご確認ください。
[3]助成額は?
中途採用を一定率増やすと50万円です。「45歳以上」かつ「賃金5%以上アップ」の場合は、100万円に倍増します。
中途採用率の求め方については、厚生労働省「中途採用等支援助成金(中途採用拡大コース)をご活用ください」ページで紹介されていますので、ご確認ください。
45歳を超えると経験豊富ですし、柔軟性を失っていない方も多数いらっしゃいます。助成金の後押しもあるので、ぜひ活用を考えてみましょう。
(公式サイト)厚生労働省「中途採用等支援助成金(中途採用拡大コース)」
2. 中途採用等支援助成金(UIJターンコース)
ポイント
・東京圏からの移住者が対象
・「デジタル田園都市交付金」関係の採用であることが条件
・最大100万円
[1] 中途採用等支援助成金(UIJターンコース)とは?
東京圏からの移住者であり、一定の条件を満たした人を採用した場合に活用できる助成金です。採用活動にかかった経費の一部が支給されます。
ただし「デジタル田園都市交付金」(地方創生推進タイプ/移住・起業・就業型)絡みの採用であるかどうかが、最も高いハードルです。まずは次のページで、対象自治体をご確認ください。8ページ目以降に一覧があります。
(参考)デジタル田園都市国家構想交付金(地方創生推進タイプ(移住・起業・就業型))の交付対象事業の決定(令和5年度第1回)について
なお上記ページの「継続事業分の欄」を見ると、全国ほぼ満遍なく網羅されている印象です。さらに「新規事業分」には、東北エリア全体の市町村が数多く追加されています。
[2]主な条件は?
主な条件は次の通りです。
(1)次の全ての条件を満たす労働者である
・東京圏からの移住者
・デジタル田園都市国家構想交付金(地方創生推進タイプ(移住・起業・就業型))を活用し、地方公共団体のマッチングサイトに掲載された求人に応募し、採用された
・雇用保険の一般被保険者または高年齢被保険者として雇われた
・継続して雇用することが確実であると認められる
(2)採用活動に係る計画書を労働局に提出し、労働局長の認定を受けている
(3)計画書に定めた計画期間内に、次の採用活動を行っている
先述した通り、大きなポイントは(1)の「デジタル田園都市国家構想交付金」です。当交付金のマッチングサイトに求人情報を掲載し、採用した場合は、助成金を活用しましょう。
なお「デジタル田園都市国家構想」とは、国が力を入れている施策の一つで、通称「デジ田構想」と言われています。
その根底には、デジタル化によって地方へのヒト・モノ・カネの流れを創り、都市と地方の格差解消を推進したいという考えがあります。
こうした構想を実現するため、デジタル実装に必要な経費などを支援するのが「デジタル田園都市国家構想交付金」です。
デジタル田園都市国家構想交付金についての詳細は、内閣官房・内閣府総合サイト「デジタル田園都市国家構想交付金」をご確認ください。
[3]助成額は?
最大100万円です。
[4]対象経費は?
採用活動に使った経費のうち、次のものが対象となります。
・募集・採用パンフレットなどの作成・印刷経費
・自社ウェブサイト・自社PR動画の作成・改修経費
・就職説明会・面接会・出張面接などの実施経費(オンラインによるものを含む)
(例)出展料、会場借料、採用担当者の旅費・宿泊費、使用資料の作成・印刷・送料費用など
・外部専門家(社会保険労務士、中小企業診断士、民間有料職業紹介事業者など)によるコンサルティング費用
採用活動に関する幅広い経費が対象となります。対象自治体の事業者は、これを機会に整備しておけば今後にもつながるのではないでしょうか。
(公式サイト)厚生労働省「中途採用等支援助成金(UIJターンコース)」
3. 特定求職者雇用開発助成金(就職氷河期世代安定雇用実現コース)
ポイント
・「就職氷河期世代」が対象
・ハローワークなどの紹介が必要
・助成額は60万円
[1] 特定求職者雇用開発助成金(就職氷河期世代安定雇用実現コース)とは?
いわゆる「就職氷河期世代」対策の助成金です。
正規雇用の機会を逃したことにより、十分なキャリア形成がなされず、正規雇用に就くことが困難な状態だった人を雇い入れたときに支給されます。
[2]主な条件は?
主な条件は次の通りです。
(1)次の全ての条件を満たす労働者である
・1968年(昭和43年)4月2日から1988年(昭和63年)4月1日までの間に生まれた
・雇入れの日の前日から起算して
⇒過去5年間に、正規雇用労働者として雇用された期間を通算した期間が1年以下
⇒過去1年間に正規雇用労働者等として雇用されたことがない
・ハローワークなどの紹介の時点で「安定した職業就いていない」かつ「ハローワークなどにおいて、個別支援などの就労に向けた支援を受けている」
・正規雇用労働者として雇用されることを希望している
(2)ハローワークまたは民間の職業紹介事業者などの紹介により採用する
(3)正規雇用労働者として雇用する
なお(2)については、具体的には次に挙げた機関のことを指します。
・ハローワーク
・適正な運用を期すことのできる有料・無料職業紹介事業者
・届出を行った無料職業紹介事業者
・地方運輸局(船員として雇い入れる場合)
対象となる職業紹介事業者は、厚生労働省「取り扱い職業紹介事業者等一覧表」に記載がありますので、ご確認ください。
なお先ほど条件の中で挙げたように、「ハローワークなどにおいて、個別支援などの就労に向けた支援を受けている」ことも、助成金を受け取るために必要です。上記一覧表内に掲載がある事業者から紹介を受け、なおかつ本人が事業者において就労支援を受けている場合に活用できる助成金です。
[3]助成額は?
助成額は60万円。半年ごとに2回支給されます。
「再チャレンジ」を支援する政策に基づく制度です。あてはまる人材がいた場合は積極的に活用しましょう。
(公式サイト)厚生労働省「特定求職者雇用開発助成金(就職氷河期世代安定雇用実現コース)」
(2)若者や未経験者を雇う
若者や未経験者を採用した場合は、次の助成金が受け取れる可能性があります。
・トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)
・特定求職者雇用開発助成金(三年以内既卒者等採用定着コース)
一つずつ紹介します。
1. トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)
ポイント
・就職が困難な求職者が対象
・原則3ヶ月のトライアル雇用
・助成額は1人あたり「4万円×最大3カ月」
[1] トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)とは?
職業経験の不足などから就職が困難な求職者を、無期雇用契約へ移行することを前提に、一定期間試行雇用 (トライアル雇用)を行うときに活用できる助成金です。
[2]主な条件は?
主な条件は次の通りです。
(1)ハローワークや職業紹介事業者などの紹介で採用し、かつ紹介日において、 次のいずれにも該当しない労働者である
・安定した職業に就いている
・「自ら事業を営んでいる」または「役員に就いている」者であり、1週間当たりの実働時間が 30 時間以上
・学校に在籍している
・トライアル雇用期間中
(2) 次のいずれかに該当する労働者である
・紹介日前2年以内に、2回以上離職または転職を繰り返している
・紹介日前において離職している期間が1年を超えている
・妊娠、出産または育児を理由として離職し、紹介日前において安定した職業に就いていない期間(離職前の期間は含めない。)が1年を超えている
・紹介日において、
⇒ニートやフリーターなどで45歳未満
⇒就職支援にあたって特別の配慮を有する次のいずれかに該当する
(母子家庭・父子家庭・生活困窮者など)
(3)ハローワークや紹介事業者などに提出された求人に対して、ハローワークや紹介事業者などの紹介により雇い入れること
(4)原則3ヶ月のトライアル雇用をする
(5)1週間の所定労働時間が原則として通常の労働者と同程度(30時間を下回らない)である
母子家庭・父子家庭で復職する方を採用する事業者は検討してみてください。
[3]助成額は?
助成額は1人あたり「4万円×最大3カ月」です。合計額がまとめて振り込まれます。
※対象者が「母子家庭の母」または「父子家庭の父」の場合、1人につき月額5万円となります。
(公式サイト)厚生労働省「トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)」
2. 特定求職者雇用開発助成金(三年以内既卒者等採用定着コース)
ポイント
・既卒者や高校中退者が対象
・1年以上の継続した雇用が必要
・1年後に50万円(既卒者)・60万円(高校中退者)
[1] 特定求職者雇用開発助成金(三年以内既卒者等採用定着コース)とは?
既卒者や高校中退者が応募できる新卒求人の申込みまたは募集を行い、
・新規学卒枠で初めて採用
・一定期間定着させた
場合に活用できる助成金です。なお「新卒求人」とは、学校(小学校と幼稚園を除く)を卒業・修了見込みであることを条件とした求人を意味します。
[2]主な条件は?
主な条件は次の通りです。
【既卒者等コース】
(1)通常の労働者(直接雇用・期間の定めなし、など)として雇用する
(2)これまで既卒者等を新卒枠で雇い入れたことがない
【高校中退者コース】
(1)通常の労働者(直接雇用・期間の定めなし、など)として雇用する
(2)これまで高校中退者等を新卒枠で雇い入れたことがない
[3]助成額は?
既卒者を採用して定着すると、1年後に50万円、3年定着すると計70万円の助成金を受け取ることができます。
高校中退者の場合はやや加算され、1年後に60万円、3年定着すると計80万円です。
(公式サイト)厚生労働省「特定求職者雇用開発助成金(三年以内既卒者等採用定着コース)」
(3)その他
他にこのような助成金もあります。
・地域雇用開発助成金(地域雇用開発コース)
・トライアル雇用助成金(若年・女性建設労働者トライアルコース)
一つずつ紹介します。
1. 地域雇用開発助成金(地域雇用開発コース)
ポイント
・雇用機会が特に不足している地域が対象
・対象労働者を3人(創業の場合は2人)以上雇う
・助成額は50万円~
[1] 地域雇用開発助成金(地域雇用開発コース)とは?
雇用機会が特に不足している地域において、事業所の設置・整備を行い、さらに地域の居住者を採用した場合に活用できる助成金です。
対象となる地域は、
などのページで確認できます。
[2]主な条件は?
主な条件は次の通りです。
(1)次の全てを満たす労働者である
・雇い入れ日時点で地域に居住
・ハローワークなどの紹介で雇い入れられた
・雇い入れ当初から、雇用保険の一般被保険者または高年齢被保険者
・継続して雇用する労働者として雇い入れられた
(2)施設設備の設置・整備及び、雇い入れに関する計画書を労働局長に提出
(3)対象労働者を3人(創業の場合は2人)以上雇い入れる
(2)の計画書とは、次の書類です。
A4用紙1枚程度、簡易なものです。このページからダウンロードできます。
[3]助成額は?
助成額は50万円~。設備投資費用と人数によって異なります。
[4]対象経費は?
次の全ての条件を満たす費用が対象です。
・雇用拡大のために必要な事業に使う
・計画期間(最長18カ月間)内に設置や整備を行う
・1点あたり20万円以上で、合計額が300万円以上であること
具体的には、次のような費用が経費として認められます。
・事業所の新設または増設工事費用、内装工事費用
・不動産購入費用
・動産の購入費用(機械、装置、工具、器具、備品、車両、船舶、航空機、運搬器具など)
・事業所や動産の賃借またはリース費用など
地域雇用開発助成金は他の助成金と異なり、設備投資に対する助成です。該当地域で事業拡大を行う事業者には耳寄りな情報です。
(公式サイト)厚生労働省「地域雇用開発助成金(地域雇用開発コース)」
2. トライアル雇用助成金(若年・女性建設労働者トライアルコース)
ポイント
・建設業向け
・35歳未満または女性の採用が条件
・1人あたり「4万円×最大3ヶ月」
[1] トライアル雇用助成金(若年・女性建設労働者トライアルコース)とは?
建設業の中小事業主が、35歳未満または女性を建設技能労働者などとして試行雇用する際に使える助成金です。
一般向けの「トライアル雇用助成金」(1カ月あたり最大4万円)と併せて受給することもできます。
[2]主な条件は?
主な条件は次の通りです。
(1)35歳未満または女性である
(2)建設工事現場での現場作業や施工管理に従事している
○⇒左官、大工、鉄筋工、配管工など
×⇒設計、測量、経理、営業など
[3]助成額は?
就労した日数によって異なります。最大4万円×3カ月です。
(公式サイト)厚生労働省「トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)」
まとめ
政府は雇用促進に取り組んでいます。対象が比較的広い中途採用支援助成金を軸に、他の助成金も活用を考えてみましょう。
支援制度には、申請の要件や定量目標などの細かいルールがあります。きちんと満たすように心がけることが大切です。気になることがあれば、ウェブサイトからご相談ください。