成長戦略としてのM&A!「株式譲渡・事業譲渡・合併」とは?

近年では、中小企業の件数も増えているM&A。従来の成長戦略といえば「既存事業を強化する」「新規事業を立ち上げる」が二本柱でしたが、M&Aは第三の柱となりうる手法といえます。

ただしM&Aには複数のパターンがあり、自社に合ったものを選ぶことが大切です。この記事では、「株式譲渡」「事業譲渡」「合併」の違いと、それぞれのメリットを解説します。

M&Aとは?

そもそもM&Aとは、“Mergers and Acquisitions”の省略。いわば「合併と買収」を合わせたもので、主に「事業譲渡」「株式譲渡」「合併」という3つの手法があります。

ひと昔前はM&Aというと、“大企業が行うもの”というイメージが一般的でした。乗っ取りや強引な買収といった、ネガティブなイメージもいまだに残っている状況です。

その一方で、M&Aを成長戦略と位置付けて活用し、業績を伸ばす中小企業も増えてきました。その変化が分かるのが次のグラフです。

これは、中小企業のマッチング支援を行う「事業引継ぎ支援センター」において、相談社数や成約件数がどのように変化したかを表したものです。

引用:中小企業庁「M&Aを通じた経営資源の有効活用」

このように、相談件数と成約件数共に、右肩上がりである状況が見て取れます。M&Aは決して“大企業だけのもの”ではないのです。

買い手側にとってM&Aは、相手先企業が持つ資金や人材、ノウハウの吸収につながります。新規事業に参入しやすくなりますし、短期間での事業成長も見込めます。業界内でのシェア拡大にもつながるでしょう。

売り手側にとっても、M&Aは「選択と集中」を可能にする手法です。売却によって経営資源を集中させれば、好調な事業への設備投資もできるのです。

ただし利益を最大化するためには、合った手法を選ぶことが欠かせません。次から具体的に、各手法の概要とメリットを紹介します。

M&Aの手法(1)株式譲渡

株式譲渡とは、株式の売買によって経営権を譲り渡す手法です。つまり、買い手側は会社を手にすることができ、売り手側はお金を手にすることができます。

メリット(1)手続きがシンプル

最大のメリットは、他の手法と比べて手続きが簡単なこと。そのため、中小企業のM&Aで最も件数が多いのが株式譲渡です。

原則として、株式譲渡契約書を取り交わし、株式に対する対価の支払いと株式名簿の書き換えが済めば、手続きが完了します。

そのため、買い手側はあまり時間をかけずに会社を手に入れることができますし、売り手側も短い期間で会社の現金化が可能となります。

メリット(2)許認可もそのまま引き継げる

許認可などの再申請が不要という点もメリットといえます。

株式譲渡は、包括承継が原則です。そのため買い手側は、再申請や再認可の手間をかけることなく、スムーズに事業を継続することができます。

メリット(3)過半数や80%などの持ち分を調整できる

株式の過半数を取得すれば、実質上の支配権を握ることができます。仮に100%取得すれば、会社の支配権を全て取得できるということです。

中小企業の場合、経営者一族が株式の全部もしくは大半を持っていることが少なくありません。経営者が完全に引退する場合には100%の持ち分を売却することもできます。経営者が引き続き関与する場合には、51%や80%などの取引も可能です。

ここまで見てきたように、株式譲渡を活用すれば、比較的スピーディーに会社を丸ごと手に入れることができます。そのため「手続きを簡略化したい」「売主と買主とで持ち分比率を調整したい」という場合は、株式譲渡を選ぶのが得策といえます。

ただし、買い手側が負債やトラブルも引き継ぐ必要がある点は、デメリットと言えるでしょう。リスク回避のためには、デューデリジェンスを徹底的に行って、負債やトラブルを洗い出しておくことが重要です。

M&Aの手法(2)事業譲渡

事業譲渡とは、事業の一部または全てを他社へ譲渡する手法です。

譲渡の対象は、工場設備や在庫などの有形資産だけではありません。人材やノウハウ、ブランド、取引先との関係といった、無形資産も含まれます。

メリット(1)必要な事業だけを引き継げる

買い手側にとって事業譲渡は、どの事業を買収するかを選べる自由度の高さが魅力です。自社にとって必要な事業だけを引き継げることは、大きなメリットと言えるでしょう。

例えば、新規事業に取り組みたいと思っても、多大なコストがかかり、リスクがつきまといます。M&Aによって既に軌道に乗った事業を引き継げば、コストとリスクを抑えながら、効率的な事業成長が見込めます。

逆に売り手側にとっては、「不要部門を切り離し、主要部門に集中できる」というメリットにつながります。まとまった額の現金が手に入るので、財務状態の改善も行えます。

メリット(2)リスクを引き継ぐ心配がない

事業譲渡では、必要な資産や負債だけを選んで買収できます。そのため買い手側にとって、簿外債務を引き継ぐリスクを回避できるというメリットがあります。

株式譲渡や合併だと、そうはいきません。売り手側の全てを承継するため、不要な資産や負債も背負ってしまうのです。

メリット(3)節税につながる

事業譲渡であれば、のれん相当額を5年間にわたって損金として計上(定額償却)できます。そのため、節税効果が期待できるという点もメリットです。

M&Aにおける「のれん代」とは、「買収価格」と「売り手側の純資産額」の差額のこと。例えば、純資産額が10億円の事業を15億円で買収したとしましょう。この場合、のれん代は5億円となります。

つまりこの場合、5年にわたって年間1億円を損金計上し、節税することができます。なお会計上は、のれんは20年以内に償却、負ののれんは譲渡年度に一括償却します。

ここまで見てきたように、事業譲渡を活用すれば、リスクを避けながら必要な事業だけを買収することができ、しかも節税効果が期待できます。負債を承継しなくて良いため、会社の一部事業だけを売買する場合に適した手法です。

ただし、事業譲渡のデメリットとして「煩雑で時間と手間がかかる」という点があります。対象を選べるからこそ、個別に契約名義の変更や再契約などの手続きを行う必要があるためです。また、買い手側には消費税、売り手側には法人税などの税金が課せられるケースもあります。

契約関係が複雑な事業を譲渡する場合には、前述したメリットとデメリットの両面を見極めましょう。その上で、採用するスキームを決定するのがよいと思われます。

M&Aの手法(3)合併

合併とは、二つ以上の会社を一つに統合する手法です。合併には、次の二つがあります。

・吸収合併・・・一つの会社が他の会社を取り込む。
・新設合併・・・複数の会社から、新たな会社を設立する。

M&Aで多いのは吸収合併のパターンです。新設合併は手間がかかるため、あまり行われません。

メリット(1)買収資金を準備しなくても良い

合併においては、対価として株式の交付も認められています。つまり買収資金が不要です。

元手となる資金がなくても、金融機関から資金を調達する必要がありません。自社の株式を交付すれば、合併できるということです。

メリット(2)シナジー効果が期待できる

合併による大きなメリットは、シナジー効果(相乗効果)が期待できるという点です。

活用できる人材が同じ会社で連携すれば、新規事業にも挑戦しやすくなります。二社の技術やノウハウを合わせることで、業務のレベルを底上げできるケースもあるでしょう。二社が合併することで信用力がアップすれば、スムーズな資金調達にもつながります。

このように、単純に「1+1=2」ではなく、プラスαが期待できるのは、合併ならではのメリットです。

メリット(3)業界シェアの拡大につながる

同業の会社が複数で合併すれば、規模が大きくなって、市場におけるシェアが拡大します。例えば、業界2位と3位の会社が合併することで、業界1位を超えることも可能でしょう。

ここまで見てきたように、合併を行うことでシナジー効果やシェア拡大が期待できます。しかも買収資金を用意する必要もありません。ですから、同業会社を買収してシェアの拡大を目的にする場合は「合併」が有力です。

ただし合併のデメリットとして、他の二つの手法と比べて「とても手続きが多い」という点があります。その分、当然ながら費用もかかるということです。

また包括承継なので、簿外債務などのリスクもあります。リスクを回避するためにも、慎重にデューデリジェンスを実施することが重要です。

まとめ

M&Aは手続きが多くリスクもありますが、“時間を買う”ことができる手法であり、中小企業にも裾野が広がりつつあります。チャンスを逃さずにつかめるよう、選択肢としてもっておくことをおすすめします。

気になることがあれば、ウェブサイトからお問い合わせください。