「経営力向上計画」をご存じでしょうか?承認されると、税制の優遇や金融支援、法的支援などを受けることができます。申請書の様式もWordに換算すると3枚と比較的手軽で、特に大型の設備を導入する事業者様におすすめです。
この記事では、経営力向上計画の概要やメリット、認定件数などを解説します。
経営力向上計画とは?
経営力向上計画とは、経営力を向上させるための取り組みを、所定のフォーマットにまとめたもの。中小企業の経営力向上を目的として、平成28年(2016年)にスタートした国の制度です。
一言で「経営力を向上させる」と言っても、一筋縄ではいきません。取り組むべきことは人材育成や生産性向上、コスト削減など多岐にわたり、具体的に何をすれば良いのか分からないことも多いでしょう。
そんなときに威力を発揮するのが経営力向上計画です。策定する過程で自社の状況や課題について考え、対応策を練るための良いきっかけになります。そして支援策を受けることで、“絵にかいた餅”で終わらせず、実現に向けて着実に進むことが可能です。
ちなみに中小企業向けの経営計画制度として、別記事で紹介した「経営革新計画」もあります。
参考:経営革新計画とは?概要やメリット、承認率、審査のポイントを紹介
こちらも支援策が充実していますが、要件として「新しい取り組みをすること」があります。一方で経営力向上計画は、新しいことに取り組む必要はありません。
しかも申請書の様式は、Wordに換算すると3枚。経営力向上計画申請プラットフォームから電子申請できるなど、取り組みやすいことも魅力です。
承認を受けるための要件
経営力向上計画の承認を受けることができるのは、次の要件を満たす事業者です。
このように、会社または個人事業主の他、医療法人や社会福祉法人、特定非営利活動法人も対象です。
ただし、税制措置や金融支援などを受けるためには、さらに条件が定められています。詳しくは中小企業庁の手引き資料をご確認ください。
参考:中小企業庁「中小企業等経営強化法に基づく支援措置活用の手引き」
経営力向上計画のメリット
経営力向上計画の承認を受けると、さまざまな支援策が受けられるようになります。主なメリットを紹介します。
メリット(1)税金負担が軽減する
経営力向上計画を実行する際に発生する、一部の税金負担を軽減できます。
例えば、経営力向上計画に基づいて機械設備などを取得した場合、法人税や所得税において、「即時償却」か、または、「取得価額の10%もしくは7%(※)の税額控除」を受けることができます。
※資本金3000万円超、1億円以下の法人の場合。
なお、対象となる機械設備は次の通りです。
このように支援を受けるには、「生産性1%向上」などが条件となります。補助金の手引き資料などを確認し、要件を充足できるか確認しましょう。
メリット(2)金融支援が受けられる
経営力向上計画が承認されると、次のような金融支援も受けられます。
・日本政策金融公庫による融資
・中小企業信用保険法の特例
・中小企業投資育成株式会社法の特例
・日本政策金融公庫(中小企業事業)によるスタンドバイ・クレジット
・日本政策金融公庫(中小企業事業)によるクロスボーダーローン
・中小企業基盤整備機構による債務保証
・食品等流通合理化促進機構による債務保証
このうち日本政策金融公庫による融資に関しては、中小企業事業では7億2千万円、国民生活事業では7200万円まで融資を受けることが可能。うまく活用することで、事業拡大への大きな足がかりとなるでしょう。
これらの金融支援を受けるには、対象者であるかどうかを事前に確認することをおすすめします。詳しくは次の資料をご確認ください。
中小企業庁「中小企業等経営強化法に基づく支援措置活用の手引き」
メリット(3)事業承継において、登録免許税や不動産取得税が軽減される
後継者がいないことを理由に、廃業が相次ぐ中小企業。このままでは日本経済を揺るがしかねません。そこで国では、事業承継をスムーズに進めるべく、さまざまな支援策を用意しています。
この経営力向上計画もその一つ。会社を引き継ぐにあたり、経営力向上計画に基づいて土地や建物を取得した場合、登録免許税や不動産取得税が軽減されます。
特に軽減率が高いのが、会社分割による移転登記のケース。税率が従来の5分の1になります。組織を分けて機動性を高めたい事業者様は、経営力向上計画を選択肢に入れても良さそうです。
メリット(4)補助金申請でも加点が得られる
補助金の審査において経営革新計画が加点対象となるケースがあります。
例えば、別記事で紹介した「事業承継・引継ぎ補助金」。経営力向上計画の認定を受けていると審査の際に加点され、採択される可能性が高まります。
参考:事業承継・引継ぎ補助金とは?M&A専門家活用に最大600万円
経営力向上計画の活用事例
経営力向上計画を活用して、どのような事業者がどのような新規事業を展開しているのか、具体的な事例を紹介します。
(1)測定装置の導入で、自動化と精度向上が実現(ゴム製品製造会社・群馬県)
昭和35年(1960年)の創業から、自動車用や電気機械用、工業用のゴム部品を製造し、近年では医療機器分野にも新規参入。顧客の要望を実現する小回りが強みだが、新規ゴム材料開発においては、ベテラン社員の知識や経験に頼る工程があり、作業者によりゴムの練り精度にバラツキが出るという課題もあった
そこで、小型自動混練機と測定装置を導入。試験工程の自動化や精度向上が実現。売上高や利益率などの向上につながった。
(2)受注処理のIT化と物流システム導入で、労働生産性10%アップ(卸売業・茨城県)
明治26年(1893年)創業、地域経済に根差した日用品雑貨の卸売業。強みは、地域に密着したきめ細かい営業活動やマーケティングに基づく幅広い品揃え。その一方で、顧客の細かいニーズに対応するため、多頻度多品種少量納品への対応や社内でのノウハウ継承が課題となっていた。
そこで、データ連携型のクラウドシステム導入により受注処理のIT化を実現、物流システムも導入した。その結果、誤納品がなくなり、出荷効率も23%向上。労働生産性は4年間で、目標値(2%)を大きく上回る10%以上アップとなった。
(3)販売管理システム導入により、分析にかかる時間が30%削減(携帯電話端末販売会社・福島)
携帯電話端末と、端末に付随するモバイルサービスの小売を行う企業。他社との差別化を図るためには、接客サービスの向上や効果的な機種・料金プランの提案などが欠かせない中、顧客満足度の向上や人材育成による営業力・サービス強化などが課題となっていた。
そこで、販売管理システムを導入。分析資料の加工作成にかかる作業時間を30%削減でき、営業力やサービス強化につながった。さらに、ベンダーでのマスターメンテナンスが事前に行われため、会社内でのマスター登録作業時間も50%削減。労働生産性が一年間で、4.3%向上する見込み。
出典:中小企業庁「認定事例集」
経営力向上計画の承認率は?通過のためのポイントは?
経営革新計画の承認率は公表されていません。そのため割合は分かりませんが、これまでの認定件数は明らかになっています。
この表は、令和4年(2022年)3月31日現在の認定数と、業種別や地域別の数字をまとめたものです。
このように、認定件数は累積で138,472件。製造業と建設業、卸・小売業の多さが目立ちますが、同時に幅広い業種で認定されていることも読み取れます。
承認率が未公表のため明言はできませんが、経営力向上計画は比較的ハードルが低いことが推測されます。
繰り返しになりますが、申請書の様式はWord形式だと3枚。
・企業の概要
・現状認識
・経営力向上の目標及び経営力向上による経営の向上の程度を示す指標
・経営力向上の内容
・事業承継等の時期及び内容(事業承継などを行う場合のみ)
など、簡単な計画を策定することにより、認定を受けることができます。
まとめ
経営力向上計画の最大の魅力は、大型設備を導入する場合の優遇税制だと思われます。この他、事業承継を考える事業者様も要注目です。
支援制度には、申請の要件や定量目標などの細かいルールがあります。きちんと満たすように心がけることが大切です。気になることがあれば、ウェブサイトからお問い合わせください。