創業する際には「資金をどう調達すればいいのだろう」「専門家に経営の相談に乗ってもらいたい」など、悩みや不安がつきもの。そこで活用したいのが、各自治体が行っている創業支援事業です。
創業支援事業では、助成金や無料セミナー、経営アドバイスなどのサポートが受けられます。今回は、関東圏と関西圏の自治体が、どのような支援を行っているのかを紹介します。
※令和4年(2022年)12月4日時点の情報です。現在は申請期間外の補助金なども含みます。最新情報は必ず公式サイトをご確認ください。
自治体の創業支援を活用するメリット
内容は自治体によって異なりますが、利用することで次のようなメリットが得られます。
(1)有利な条件で融資が受けられる
創業するとき、避けて通れないのがお金の工面。多くの自治体では、低金利・無担保・無保証など、有利な条件で融資を受けられる制度を用意しています。
(2)法人登記における登録免許税が減免される
会社を設立する際に必要になるのが登録免許税。株式会社なら最低でも15万円かかります。ところが、東京都の千代田区や江戸川区のように、自治体の創業支援を受けることで、登録免許税の減免が受けられる可能性があります。
(3)各種セミナー・経営相談が無料で受けられる
創業時には、初めて行う取り組みが多く、何かと手探りになりがちです。自治体の創業支援事業を利用すれば、各種セミナーや経営相談などを無料で受けることができます。
自治体が創業支援に力を入れるのは、創業によって雇用が生まれ、経済の活性化につながるため。創業時の悩みは多くの経営者に共通するものが多く、こうした自治体による創業支援を利用することは経営者にとっても有益です。
自治体の創業支援事業【関東圏】
関東圏の自治体が展開している事業を紹介します。
創業助成金【東京都】
創業助成金は、東京都と公益財団法人 東京都中小企業振興公社が主体となって実施している支援事業です。
目玉といえるのが、最大300万円の助成金。オフィスの賃借料や広告費、従業員の人件費など、創業初期にかかる経費の2/3が助成されます。
なお、近年の採択率は次の通り。
〈近年の採択率〉
・平成29年・・・・・・・・・・・・・13.3%
・平成30年・・・・・・・・・・・・・25.2%
・令和元年・・・・・・・・・・・・・・18.8%
・令和2年・・・・・・・・・・・・・・15.0%
・令和3年・・・・・・・・・・・・・・13.8%
※小数点以下第2位四捨五入。
このように採択率が20%を下回る年が多く、狭き門と言えるかもしれません。また、募集は春と秋の2回行われていますが、申請期間が10日ほどしかありません。早めから準備しておくことが大切です。
(公式サイト)創業助成事業
女性・若者・シニア創業サポート事業【東京都】
女性や若者(39歳以下)、シニア(55歳以上)を対象とした事業です。
活用する主なメリットは次の通り。
・低金利(固定年利1%以内)で融資が受けられる
・信用保証協会の保証料が不要
・東京都の「創業助成金」も申し込める
このように、少しでも出費を抑えたい創業期にはありがたいサポートばかりです。他にも、無料セミナーや個別相談、無料経営アドバイスなども受けられます。
なお採択率に関しては、創業サポート事業自体には審査がありません。ただし、融資には金融機関の審査が、助成金には事務局による審査があります。
詳しくは、別記事「1%以内の固定金利、しかも最大10年!『女性・若者・シニア創業サポート事業』【東京都】」でも紹介しています。あわせてご覧ください。
(公式サイト)女性・若者・シニア創業サポート事業
商店街起業・承継支援起業【東京都】
都内の商店街において「開業や多角化のための新店舗開設」「事業承継のための店舗改装」を考えている方向けの事業です。
助成金の内容は次の通り。最大580万円の助成が受けられます。
店舗の新装・改装費はもちろんのこと、賃借料も2年間受けられる点が特徴的です。
対象かどうかは、申請対象者確認フローチャートで簡単にチェックできます。
(公式サイト)商店街起業・承継支援起業
(特設サイト)商店街起業・承継支援起業
東京23区における創業支援事業
東京都では、各区が独自の創業支援事業に取り組んでいます。詳しい内容は、リンク先のページなどでご確認ください。
千代田区
中央区
・起業家塾
港区
新宿区
文京区
渋谷区
豊島区
台東区
墨田区
江東区
荒川区
足立区
葛飾区
・創業塾
・創業相談
江戸川区
品川区
大田区
世田谷区
・相談窓口
中野区
・各種講座
杉並区
練馬区
北区
板橋区
起業家育成資金【埼玉県】
埼玉県の起業家育成資金は、金融機関や埼玉県信用保証協会などと連携して、事業に必要な資金を融資する制度です。
・返済期間・・・・・・・・・設備資金:10年以内/運転資金:7年以内
(うち据置期間1年以内)
・融資限度額・・・・・・・3,500万円
5年超でも保証料込みで1.8%以内と、非常によい条件での融資を受けることができます。
(公式サイト)起業家育成資金
創業資金【千葉県】
千葉県にも、埼玉県と同じく「県制度融資」があります。
千葉県の創業資金は、「一般枠」と「経験・資格枠」に分かれています。
(1)一般枠
創業者または創業5年未満の中小企業者を対象にした枠です。
・返済期間・・・・・・・・・設備資金:7年以内/運転資金:5年以内
(うち据置期間1年以内)
・融資限度額・・・・・・・設備資金:3,500万円/運転資金:2,500万円
(2)経験・資格枠
一般枠と同じく、創業者または創業5年未満の中小企業者が対象です。さらに「同一企業に継続して3年以上勤務している」または「同一業種の企業に5年以上勤務している」といった要件を満たすことで、経験・資格枠での応募が可能になります。
・返済期間・・・・・・・・・7年以内(うち据置期間1年以内)
・融資限度額・・・・・・・設備資金:6,000万円/運転資金:5,000万円
一般枠と比べて、設備資金と運転資金どちらも、2,500万円ずつ限度額が増えます。
(公式サイト)千葉県制度融資のご案内
創業支援融資【神奈川県】
神奈川県も、創業融資制度を用意しています。
・返済期間・・・・・・・・・10年以内
・融資限度額・・・・・・・3,500万円
埼玉・千葉・神奈川と、同じ首都圏でも微妙に条件が違っていますが、いずれも通常の借入よりも優遇されています。
(公式サイト)創業支援融資
自治体の創業支援事業【関西圏】
続いて、関西圏の自治体が展開している事業を紹介します。
大阪起業家グローイングアップ事業【大阪府】
大阪府には、「大阪起業家スタートアップ事業」という創業支援事業があります。主な内容は次の通り。
・創業支援機関(推薦機関)による有望な起業家の発掘
・ビジネスプランコンテストの開催
・コンテスト受賞者に対して補助金の交付及びハンズオン支援
このように、有望な起業家を発掘し、補助金交付やハンズオン支援を組み合わせることで、創業者の着実な成長を支援する事業です。
なおビジネスコンテスト受賞者には、補助金が交付されます。
・優勝(1名)・・・・・・・・・・・・・・・100万円
・準優勝(2名以内)・・・・・・・・・50万円
・その他、特別賞
なお、令和4年(2022年)12月に開催されるコンテストでは、
・SDGsに取り組む事業
・Society 5.0に取り組む事業
においては加点されるなど、時代に合ったビジネスが高く評価される仕組みも用意されています。
ビジネスコンテストに参加することは、社会ニーズや課題を捉えたビジネスモデルを考え、ブラッシュアップする機会にもつながることでしょう。
(公式サイト)大阪起業家グローイングアップ事業
起業家支援事業(一般事業枠)【兵庫県】
兵庫県では、ビジネスプラン開発を支援するための事業を行っています。
審査会において有望なビジネスプランだと認められると、補助金が交付されます。最大100万円(※)、事務所開設費や備品費、専門家経費、広告宣伝費などの経費のうち、1/2が補助されます。
※空き家を活用する場合は、改修費に対して別途100万円を上限に加算あり。
なおこの事業には、次のような枠が設けられています。
・起業家支援事業(ふるさと枠)(兵庫県へのUJIターン起業家向け助成金)
※「東京23区枠」とは、東京圏UJIターンにより兵庫県へ移住した人を対象とした枠です。
それぞれ対象となる事業が違ったり、補助金の上限が違ったりと、少しずつ違いがあります。詳しくはリンク先の内容を見て、どの枠で申請するかご検討ください。
(公式サイト)起業家支援事業
起業支援事業費補助金【京都府】
京都府では、起業支援事業費補助金という制度を用意しています。
補助率1/2、最大200万円の補助金で、対象経費は、従業員の人件費、店舗等借入費、設備費、原材料費、借料、知的財産権等関連経費、外注費、委託費、広報費などです。
対象事業として想定しているのは、主に次の二つ。
(1)地域活性化関連
農林水産物や優れた自然環境・景観、文化財などの地域資源を活用した特産品開発・販売、さらには地元食材を活用した飲食・サービスなど域活性化につながる事業が対象です。
(2)社会福祉・社会教育・子育て支援関連
高齢化や子育て世帯向けの福祉・教育等の生活支援サービスの供給、及びそれに付随する事業などが対象です。
令和4年(2022年)度の採択予定数は、およそ15件。応募総数が分からないため、採択率は分かりません。ただ、提出書類が比較的シンプルなので、チャレンジしてみる価値はあるのではないでしょうか。
応募書類をつくる際には、起業予定地の商工会・商工会議所「中小企業応援隊」によるコンサルティング(無料)を受ける必要があります。連絡先は相談窓口・提出先をご確認ください。
(公式サイト)起業支援事業費補助金
まとめ
都道府県や基礎自治体が地域振興のために創業支援策を競っており、創業者に手厚い支援を提供しています。創業支援施策は、「計画」に対して支援を受けられる唯一の機会ですが、支援制度は複雑で情報整理に苦労する傾向があります。専門家にも適宜相談しながら、前向きにチャレンジをしていただければと思います。
支援制度には、申請の要件や定量目標などの細かいルールがあります。きちんと満たすように心がけることが大切です。気になることがあれば、ウェブサイトからご相談ください。