人材開発支援助成金とは?全7コースの特徴・助成額などを解説

従業員に研修やセミナーの受講を促して、企業力を底上げしたい!そんな中小企業をサポートしてくれる制度が「人材開発支援助成金」です。

当助成金は全7コース。「リスキリング」や「教育訓練休暇」という言葉にピンとくるなら、検討する価値はあるでしょう。各コースの助成額や対象者などを紹介します。

人材開発支援助成金とは?

人材開発支援助成金は、所定の職業訓練を行った事業者に対する支援制度です。訓練にかかった経費や期間中の賃金の一部が助成されます

7つのコース

人材開発支援助成金には、全部で7つのコースがあります。

(1)人材育成支援コース

 

(2)教育訓練休暇付与コース

 

(3)人への投資促進コース

 

(4)事業展開等リスキリング支援コース

 

(5)建設労働者認定訓練コース

 

(6)建設労働者技能実習コース

 

(7)障害者職業能力開発コース

後ほど一つずつ紹介します。

事業者に求められる条件(全コース共通)

全コース共通で、次の条件を全て満たす必要があります。

雇用保険の適用事業所である

 

・「職業能力開発推進者」を選任する

 

・「事業内職業能力開発計画」の策定・周知を行う

ここで気になるのは「職業能力開発推進者」「事業内職業能力開発計画」の二つでしょう。ただしどちらも、さほどハードルの高いものではありません。

「職業能力開発推進者」とは?

職業能力開発推進者とは、職業能力開発の取り組みを推進する人のことを指します。

特に資格はいりません。厚生労働省では例として、「教育訓練部門の部課長、労務・人事担当部課長など」を挙げています。

「事業内職業能力開発計画」とは?

事業内職業能力開発計画とは、「どのように人材育成するか?」という基本的な方針などをまとめた計画書のこと。このように「A4」1枚ほどの簡易なものです。

(引用)人材開発支援助成金(人材育成支援コース)のご案内

分量も多すぎず、あまり手間がかからない印象です。人材育成について見直す、いいきっかけになるのではないでしょうか。

労働者に求められる条件

労働者に求められる条件は次の通りです。

被保険者の場合

次の条件を全て満たすことが必要です。

▼被保険者の場合

 

・訓練を受講した時間数が、実訓練時間数の8割以上である

  

  

▼有期契約労働者などの場合

 

・訓練の終了日または支給申請日において被保険者である

 

・正規雇用労働者などとして雇用することを約して雇い入れられた

 

・訓練を受講した時間数が、実訓練時間数の8割以上である

令和6年(2024年)2月1日時点で公開されている公式サイトは以下です。

人材開発支援助成金

人材開発支援助成金7つのコース

ここからは7つのコースについて、一つずつ紹介します。

(1)人材育成支援コース

所定の訓練を行った場合に、助成金を受け取ることができます。

1.対象となる訓練

次の、いずれかの訓練を行った場合が対象です。

<人材育成訓練>

 

⇒知識やスキル習得のための訓練を OFF-JT10時間以上行う

  

 

<認定実習併用職業訓練>

 

⇒厚生労働大臣の認定を受けたOJT付きの訓練を行いジョブ・カードを使って職業能力の評価を実施

  

 

<有期実習型訓練>

 

⇒非正規雇用労働者を対象とした正社員化を目指す訓練を、OFF-JTとOJTを組み合わせて行う

用語について補足します。

▼OFF-JT

“OFF the Job Training”の略。職場や通常業務から離れ、特別に時間や場所を取って行う教育訓練を指します。

▼OJT

“On the Job Training”の略。上司や先輩などが指導役となり、実務を通して知識やスキルを身につける教育訓練を指します。

▼ジョブ・カード

従業員が自分自身のキャリアを見つめ直し、成長する手助けとすることを目的に作られたツールです。様式がいくつかあり、当助成金では「職業能力証明シート」を使用します。具体的な内容や記入例などは、厚生労働省「ジョブ・カード制度」をご覧ください。

なお対象となる訓練には、それぞれ細かい条件があります。詳しい内容については、人材開発支援助成金(人材育成支援コース)のご案内でご確認ください。

2.助成額・助成率は?

助成額と助成率は次の通りです。

(引用)人材開発支援助成金(人材育成支援コース)のご案内

「支給対象となる訓練」欄に並んでいる「人材育成訓練」「認定実習併用職業訓練」「有期実習型訓練」の3つは、先ほど「1.対象となる訓練」で紹介した訓練と対応しています。

詳しい内容については、人材開発支援助成金(人材育成支援コース)のご案内でご確認ください。

金額やパーセンテージについては、さまざまな数字が並んでいますが、経費助成にとどまらず、賃金助成やOJT実施助成という形態もあることが特徴です。

3.支給限度額は?

支給限度額は次の通りです。

(引用)人材開発支援助成金(人材育成支援コース)のご案内

上限を加味すると、OFF-JT経費助成は「10時間以上100時間以内」の枠を利用するのが最も助成率が高まりそうです。

また賃金助成については、「1人1訓練あたり1,200時間以上」と、相当な長期訓練も対象です。

4.対象となる経費は?

対象経費は次の通り。

講師の謝礼や旅費はもちろんのこと、会場費や教材費も経費として認められます。外部講師による専門分野研修などに活用できる企業が多いのではないでしょうか。

(2)教育訓練休暇付与コース

令和8年度まで限定のコースです。

労働者が有給教育訓練休暇を取得して、訓練を受けた場合に助成金が受け取れます。

1.有給教育訓練休暇とは?

教育訓練を受けるために一定期間、有給で職場を離れることを認める制度を「有給教育訓練休暇」といいます。

一定期間とは具体的には、「5年間に5日以上、かつ1年間に5日以上」です。

ヨーロッパでは立法化されている国もありますが、日本での導入率は低調。厚生労働省の調査によれば直近の5年間でも4~5%止まりです。

学び直しやリスキリングが叫ばれている昨今。国としては導入を促すべく、制度を導入した企業に対して支援を行っているのです。

2.助成額は?

休暇の長さによって助成額は異なります。

(引用)厚生労働省「人材開発支援助成金(教育訓練休暇等付与コース・人への投資促進コース)のご案内(詳細版)」

助成金を得るためには、「教育訓練休暇制度」の場合、「3年間に5日以上」の休暇が条件。「長期教育訓練休暇制度」は「30日以上」が条件です。

「教育訓練短時間勤務等制度」に関しては、「30回以上の所定労働時間の短縮および所定外労働時間の免除」が条件となります。

なお制度導入にあたっては、所定の計画書を作成し、就業規則に明記する必要があります。詳しくは厚生労働省「人材開発支援助成金(教育訓練休暇等付与コース・人への投資促進コース)のご案内(詳細版)」をご確認ください。

賃金助成は、最大150日分の助成が出る手厚い内容です。これに加えて、制度導入に対する経費助成として、企業単位で20~36万円が追加されます。ビジネススクールなど部機関での研修を考えている企業にぴったりではないでしょうか。

(3)人への投資促進コース

令和8年度まで限定のコースです。

・デジタル人材や高度人材を育成する訓練

 

・労働者が能力開発に向けて自発的に行う訓練

 

・定額制訓練(サブスクリプション型の研修サービス)

いずれかの訓練を実施した場合、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部が助成されます。

1.助成額・助成率は?

助成額と助成率は次の通りです。

(引用)厚生労働省「人材開発支援助成金人への投資促進コースのご案内(詳細版)」

表内「訓練メニュー」の欄に、訓練名や制度名がずらりと並んでいます。概要は次の通り。

<高度デジタル人材訓練>

 

ITスキル標準(ITSS)レベル4または3の取得を目標とした訓練などが対象です。

ITSSとは、高度IT人材育成を目的として作成された、教育・訓練を行う際の指標のこと。詳しくは独立行政法人「情報処理推進機構」をご確認ください。

  

<成長分野等人材訓練>

 

IT分野未経験者の即戦力化のための訓練が対象です。大学院(海外の大学院を含む)の正規課程、科目等履修制度、履修証明プログラムなどが含まれます。

  

 

<情報技術分野認定実習併用職業訓練>

 

「情報処理・通信技術者」の職種に関連する業務に必要となる訓練が対象です。

情報処理・通信技術者とは、情報処理システムの企画やソフトウェアの開発などの仕事に従事する人を指します。詳しくは厚生労働省「人材開発支援助成金人への投資促進コースのご案内(詳細版)」の22ページ目をご確認ください。

  

 

<定額制訓練>

 

サブスクリプション型の研修サービスによる訓練が対象です。

  

 

<自発的職業能力開発訓練>

 

労働者が自発的に受講した訓練が対象です。

  

 

<長期教育訓練休暇制度>

 

先ほど「(2)教育訓練休暇付与コース」でも取り上げた制度です。働きながら訓練を受講するための休暇制度や短時間勤務等制度を導入すると、この助成が受けられます。

このように、IT分野を重視していることが見て取れます。賃金助成やOJT助成もありますので、該当する企業は検討してみると良いでしょう。

各訓練の詳細については、厚生労働省「人材開発支援助成金人への投資促進コースのご案内(詳細版)」をご確認ください。

2.助成限度額は?

助成限度額は次の通り。

(引用)厚生労働省「人材開発支援助成金人への投資促進コースのご案内(詳細版)」

各メニューに関しては細かい条件があります。詳しくは、厚生労働省「人材開発支援助成金人への投資促進コースのご案内(詳細版)」をご確認ください。

3.対象となる経費は?

講師の謝礼や旅費はもちろんのこと、会場費や教材費も経費として認められます。

(引用)厚生労働省「人材開発支援助成金人への投資促進コースのご案内(詳細版)」

従業員の再教育により、高度人材に育てたい企業を想定した制度です。ぜひ活用を検討してみてください。

(4)事業展開等リスキリング支援コース

こちらも令和8年度まで限定のコースです。

新規事業の立ち上げにあたっては、新たな知識やスキルの習得が必要です。そのための訓練を実施した場合に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部が助成されます。

1.助成額は?

賃金助成は1人1時間あたり960円経費も75%助成されるなど、手厚い内容です。

(引用)「人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)のご案内(詳細版)」

2.助成額は?

助成限度額は次の通り。

(引用)「人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)のご案内(詳細版)」

限度額は、人材育成支援コースと同じです。

3.対象経費は?

先ほど見たように、75%の経費が助成されます。対象経費は次の通りです。

(引用)「人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)のご案内(詳細版)」

他のコースと同様、かなり手厚い助成があります。たとえば、講師に支払う謝金や旅費はもちろんのこと、会場代やそこで使う備品代、さらには教材費なども対象です。

国では現在リスキリングに力を入れており、これもその一環といえるでしょう。令和8年までの期間限定ですので、今のうちに活用を検討してみてはいかがでしょうか?

(5)建設労働者認定訓練コース

建設事業者を対象としたコースです。

・認定職業訓練または指導員訓練のうち建設関連の訓練

   

・建設労働者に有休で受講させた認定訓練

いずれかの訓練を実施した場合、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部が助成されます。

1.経費の助成額は?

対象経費のうち1/6が助成されます。

(引用)厚生労働省「建設事業主等に対する助成金のご案内」

2.賃金の助成額は?

一日あたり3,800円の助成があります。

(引用)厚生労働省「建設事業主等に対する助成金のご案内」

助成率は低いですが、1,000万円を上限としており手厚いです。対象となる事業者はぜひ検討してみてください。

(6)建設労働者技能実習コース

建設現場では、さまざまなスキルが必要となります。スキル向上を目的として実習を有給で受講させた場合、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部が助成されます。

1.対象となる実習は?

対象となる実習の条件には「1日1時間以上である」「実習の指導員が職業訓練指導員免許を有している、または1級技能検定に合格」などがあります。

また分野に関しても、「建設工事における作業に直接関連する実習」「労働安全衛生法に基づく教習及び技能講習」をはじめ様々です。

詳しい内容は、厚生労働省「建設事業主等に対する助成金のご案内」の27~28ページに記載されていますので、ご確認ください。

2.経費の助成額は?

「被保険者が何人いるか?」「対象となる労働者は何歳か?」などの条件によって、助成率が変わります。

(引用)厚生労働省「建設事業主等に対する助成金のご案内」

比較的規模が小さい事業者は手厚い補助が出ますので、これを機に活用しましょう。

3.対象経費は?

指導員への謝金や旅費はもちろんのこと、会場代や教材費など、幅広い経費が対象です。

(引用)厚生労働省「建設事業主等に対する助成金のご案内」

4.賃金の助成額は?

大変手厚く、一日あたり8,500円もしくは7,600円の助成があります。

(引用)厚生労働省「建設事業主等に対する助成金のご案内」

《》内の数字は、建設キャリアアップシステム技能者情報登録者の場合です。

建設キャリアアップシステムは、国土交通省が推進している制度です。建設業に関わる技能者の資格・社会保険加入状況・現場の就業履歴などを登録・蓄積し、技能者の適正な評価や建設事業者の業務負担軽減に役立てることを目指しています。

詳しくは一般財団法人建設業振興基金「建設キャリアアップシステム」をご確認ください。

(7)障害者職業能力開発コース

障害者職業能力開発訓練事業を行うために、訓練施設(能力開発施設・管理施設・福祉施設など)または設備の設置・整備または更新を行った場合に、費用の一部が助成されます。

1. 障害者職業能力開発訓練事業とは?

「障害者職業能力開発訓練事業」とは、障害者の職業に必要な能力を開発し、向上させるための教育訓練のこと。

助成金を得る場合は、厚生労働大臣が定める基準に適合していることが必要です。また他にも、「期間は6カ月以上2年以内」「1単位の受講者数はおおむね10人」など細かい条件が色々あります。

詳しくは厚生労働省「人材開発支援助成金(障害者職業能力開発コース)」をご確認ください。

2.対象となる障害者は?

次の二つを満たすことが条件です。

・次のいずれかである

  

(身体障害者・知的障害者・精神障害者・発達障害者・高次脳機能障害のある者・ 難治性疾患を有する者)

  

・ハローワークに求職の申込みを行っており、障害特性や能力、労働市場の状況などを踏まえ、職業訓練を受けることが必要であるとハローワーク所長が認め、その旨を支給対象となる事業主等に対し、職業訓練受講通知書により通知された

3.助成額と助成率は?

施設にかかった費用の3/4が助成されます。上限は5,000万円です。

まとめ

様々な教育訓練を助成する制度が用意されています。制度が複雑で読み解くのが大変ですが、チャンスを活用しましょう。労務担当者が手一杯の場合は、外部アドバイザーに相談することがおすすめです。

支援制度には、申請の要件や定量目標などの細かいルールがあります。きちんと満たすように心がけることが大切です。気になることがあれば、ウェブサイトからご相談ください。