賃貸物件のオーナーにとって、多額の費用がかかる“大規模修繕”は悩みの種。資金確保に頭を抱える方も多いのではないでしょうか。
そんな中で注目されているのが、令和3年(2021年)11月にスタートした「賃貸住宅修繕共済」制度です。この記事では、賃貸住宅修繕共済の概要やメリット、知っておきたい注意点も説明します。
賃貸住宅修繕共済とは?
賃貸住宅修繕共済は、来たるべき大規模修繕に備えるための共済制度です。毎月の掛金を支払っておくことで、修繕の際に掛金に見合った費用を受け取ることができます。
例えば、10年後に大規模修繕を予定していて、予算が1400万円の見込みとしましょう。普段から空室の原状回復や設備交換にお金がかかる中で、それだけの資金を貯めるのはなかなか大変ではないでしょうか。
ところが次表の通り、月に10万円の共済掛金を支払っておくと、修繕時に1200万円を受け取ることができるのです。
賃貸物件は一般的に、10年~15年周期で大規模修繕が必要になります。不動産賃貸業者にとって悩ましいのが多額のコスト。物件の規模によりますが、数千万円に膨らむことも珍しくありません。
「修繕する気はあるけれど、少し様子を見ている」「そもそも手元資金が足りない」などの理由で修繕を見送っていると、雨漏りやコンクリートの爆裂、汚水の逆流などが起きかねません。
トラブルを放置すれば、資産価値は下がる一方。入居率も低下して、ますます資金の調達が難しい状態に……そんな事態を防ぐために生まれたのが「賃貸住宅修繕共済」です。
この共済を運営しているのは、「全国賃貸住宅修繕共済協同組合」です。3つの業界団体、
・全国賃貸管理ビジネス協会
・公益財団法人日本賃貸住宅管理協会
・公益社団法人全国賃貸住宅経営者協会連合会
が協力して、共済商品として提供。賃貸物件のオーナーが修繕費用を計画的に準備できるような仕組みとして普及を目指しています。
なお加入の際の窓口は、3団体に加盟する管理会社の代理店となります。詳細は各代理店にお問い合わせください。
対象となる建物や補償内容
どのような建物が対象なのか、補償額はどれぐらいなのかなど、概要を見てみましょう。
(1)対象となる建物
住宅はもちろんのこと、テナント入り賃貸住宅も対象です。
<種類>
・賃貸住宅(戸建賃貸も可)
・テナント入り賃貸住宅(※)
※住宅全体の延床面積のうち、店舗部分の床面積が50%以下の建物
築年数に関しては、木造とそれ以外で異なります。
<築年数>
・木造(軽量鉄骨造)・・・・・・・・・・・・・・築30年以内
・その他(鉄骨造やRC造など)・・・・・築40年以内
この通り「築30年以内」「築40年以内」と、比較的築浅の物件のみが対象となっています。
(2)火災による修繕も対象
賃貸住宅修繕共済は、修繕共済と火災修繕共済を組み合わせた共済制度です。
修繕
次に挙げた支払い限度額内で、掛金に見合った費用を受け取ることができます。
火災
火災や落雷、破裂または爆発によって賃貸物件を修繕した場合、1回につき30万円を限度に共済金が支払われます。
金額が小さいとはいえ、火災時にも支払いが受けられるのはありがたいことです。
賃貸住宅修繕共済のメリット
この共済の主なメリットを3つ紹介します。
(1)掛金を「経費」にできる
最大のメリットは、掛金を経費にできること。つまり節税効果が得られるということです。
大半のオーナーはこれまで、預金として修繕積立金を用意していたことでしょう。預金は当然ながら経費として認められず、課税対象になってしまいます。ところが賃貸住宅共済の場合は、掛金を経費として計上することが可能です。 例えば先ほどのように、10年後に1200万円の補償を受け取る場合、
共済を利用すれば、毎年120万円の掛金を経費化することができます。オーナーの所得税率が33%だとすると、毎年の税負担がおよそ40万円分減るということです。
毎年これだけの負担が減れば、かなり助かるのではないでしょうか。しかも浮いた分を投資に回せば、より健全な経営につながります。
(2)長期修繕計画を作るきっかけになる
共済に加入するためには「長期修繕計画」が必要です。違う言い方をすれば、作らざるを得ない状況になるということです。
長期修繕計画を作るのは大変です。大手管理会社なら多くが作成していますが、個人事業のオーナーだと手が回っていないケースも多いことでしょう。
長期修繕計画はいわば、大切な将来設計です。加入をきっかけに計画を作っておくことで、適切なタイミングで適切な修繕を行うための準備ができます。結果として、健全な賃貸経営につながるメリットがあります。
下のグラフは、長期修繕計画に基づく修繕を実施しているオーナーに「計画的に修繕を実施したことの効果は?」と聞いた結果です。
この結果を見ると、およそ4割のオーナーが「高い入居率を確保できた」「家賃水準を維持できた」という効果を実感しています。
長期修繕計画を作るには、知識も必要で、時間もかかります。でも一度計画を作っておけば、十年先や二十年先を見据えた経営ができ、金融機関の信頼も得ることができます。必要に応じて管理会社や専門家のサポートを受けながら作成する価値はあるでしょう。
(3)国のお墨付きという安心感
賃貸住宅修繕共済は、国土交通省から認可を受けた共済制度で、いわば国のお墨付きということです。
大規模修繕に備えて預金していても、金利はほぼゼロです。その点、共済制度を使って毎月積み立てを行えば、課税所得を減らすことができます。
賃貸住宅修繕共済の注意点
これまで見てきたようにメリットが期待できる賃貸住宅修繕共済ですが、注意したい点もあります。
(1)修繕の対象は「外壁」「屋根・軒裏」に限られる
年月が経つと、さまざまな部分が劣化します。ただし共済が対象としているのは、外壁と屋根、軒裏のみ。そのため他の部位の修繕は、別の方法で資金を確保する必要があります。
とはいえ、大規模修繕で特に多額のコストがかかるのが足場を組む必要がある外壁と屋根です。この二つがカバーできるのは大きな助けとなるでしょう。
また今後、給排水管設備や専有部の空調設備、水回りの修繕についても、拡充の検討が進められるようです。
(2)建物検査を毎年受ける必要がある
共済金の支払いには、次の4つの条件を満たす必要があります。
注目したいのが一つ目の条件です。このように、共済金を受け取るためには建物検査を毎年受ける必要があり、加入要件の一つになっています。つまり検査コストがかかるということです。 とはいえ定期検査を受けておけば、トラブルの早期発見が期待できます。結果的に資産価値を保つことにもつながると考えると、検査を受ける価値はあるでしょう。
(3)劣化箇所を事前に修繕しないと加入できない
先ほどの「建物検査」以外にも、加入にあたっての要件が色々あります。注目したいのが、劣化事象に対する要件です。
対象となる物件に既に劣化事象が発生している場合は、修繕が必要です。あらかじめ修繕しておかなければ共済には加入できません。 当然コストがかかりますが、放置すればよりトラブルが大きくなる可能性があります。ある意味では、先手を打つきっかけになると言えるかもしれません。
(4)途中解約による返戻金や満期金はない
賃貸住宅修繕共済は掛け捨てのため、途中解約しても返戻金はありません。満期に伴う満期金もありません。
ただし掛け捨てだからこそ、月々の負担を抑えることができます。また、共済金請求権は、相続や事業承継などによって継承することができるため、加入者に不慮の事故などがあっても計画通りにメリットを得ることができます。
まとめ
賃貸住宅修繕共済は、修繕積立金を損金計上できるというメリットがある商品です。その一方で複数の制約もありますので、全体の仕組みを理解した上で、利用を検討するのが良いと思われます。
気になることがあれば、ウェブサイトからご相談ください。