BCPの入門編!防災力向上に役立つ「事業継続力強化計画」

BCPの入門編とも言われる「事業継続力強化計画」。策定しておけば、災害による被害の最小化につながるだけではなく、金融支援や税制の優遇、補助金審査における加点といったメリットも得られます。

この記事では、事業継続力強化計画の概要やメリット、認定件数などを解説します。

事業継続力強化計画とは?

事業継続力強化計画とは、防災や減災のための計画を、所定のフォーマットにまとめたもの。令和元年(2019年)にスタートした国の制度です。

災害大国・日本において、自然災害への備えは大切です。大雨で工場が浸水した、地震による停電でシステムがダウンした、危険な感染症の感染が拡大した……企業は常に、そうしたリスクに備えておかなくてはなりません。

そんな中、策定が求められているのが「BCP」(Business Continuity Plan: 事業継続計画)です。

BCPは、万が一の災害や不測の事態が起きたときでも、速やかに事業を再開し、継続するための大切な計画。ところが人手不足もあり、多くの中小企業では手つかずというのが現状です。

そこで登場したのが、事業継続力強化計画。防災や減災を目的とし、“BCPの簡易版”という位置づけ。フォーマットも用意されており、本格的なBCPより取り組みやすいのが特徴です。

事業継続力強化計画はいわば、防災・減災対策の第一歩となる存在。しかも後述する通り、「日本政策金融公庫による低利融資」「信用保証枠の拡大」といったメリットもあります。

事業の存続をおびやかす災害は、いつ起きるか分かりません。しかもコロナ禍も長引いています。この機会に、自然災害などに備え、万が一の事態が起きたときに事業と従業員を守れる体制を構築してはいかがでしょうか。

令和4年(2022年)7月19日時点で公開されている公式サイトは以下です。
事業継続力強化計画

事業継続力強化計画を受けるための要件

事業継続力強化計画の承認を受ける中小企業者の条件は、次の通りです。

(引用)中小企業庁「事業継続力強化計画認定制度の概要」

会社または個人事業主の他、所定の条件を満たす企業組合や協業組合、事業協同組合なども認定を受けることができます。

事業継続力強化計画のメリット

事業継続力強化計画の承認を受けると、さまざまな支援策が受けられるようになります。主なメリットを紹介します。

メリット(1)有利な条件で融資が受けられる

防災・減災を実現するために有効な設備があります。自家発電機や排水ポンプ、防火シャッター、感染症対策用のサーモグラフィー装置などといったものです。

金額が大きいものも多く、融資を受けて購入するなら気になるのが金利。事業継続力強化計画の認定を受けていると、設備資金に関して、基準利率から0.9%引下げが行われます。

また日本政策金融公庫による融資に関しては、中小企業事業では7億2千万円まで融資を受けることが可能です。

メリット(2)信用保証枠が拡大する

信用保証枠が拡大するのも、認定を受けるメリットの一つ。資金調達に際して、次の通り別枠での追加保証が受けられます。

(引用)中小企業庁「事業継続力強化計画認定制度の概要」

このように、普通保険や無担保保険、特別小口保険などの保証限度額が2倍へと膨らみます。保証枠を気にせずに事業継続に役立つ設備を導入できることは、安心につながります。

なお金融支援を受けるには、対象者であるかどうかを事前に確認することをおすすめします。問い合わせ先については、中小企業庁「事業継続力強化計画認定制度の概要」をご確認ください。

メリット(3)課税を繰り延べできる

事業継続力強化計画に基づいて、防災・減災のための設備を取得した場合、特別償却20%(※)が適用されます。

この特別償却により、通常の設備よりも減価償却費を早期計上でき、導入年度の税負担を減らす(課税を繰り延べる)ことができます。

※令和5年(2023年)4月1日以後に取得した対象設備は、特別償却18%。

なお対象となる設備は次の通りです。

(引用)中小企業庁「事業継続力強化計画認定制度の概要」

このように、自然災害や感染症による影響を軽減するための設備が、広範囲に認められます。

メリット(4)補助金申請でも加点が得られる

事業継続力強化計画は、補助金の審査において加点対象となるケースがあります。

例えば、別記事で紹介した「ものづくり補助金」。事業継続力強化計画の認定を受けていると審査の際に加点され、採択される可能性が高まります。

詳しくは別記事「【2022年最新】「ものづくり補助金」の補助額・対象など変更点まとめ」をご覧ください。

事業継続力強化計画の活用事例

活用事例を見てみましょう。

(1)ハザードマップを確認して、計画策定を決意(特殊金属の切削加工業・群馬県)

航空機や船舶など大型金属部品の精密加工を行うメーカー。ハザードマップを確認したところ、土石流特別警戒区域に指定されていることを知り計画を作成した。

計画をつくる過程で、自然災害の発生時に必要な「もの」や「行動」が明らかになり、被災時に役立つ軍手やスコップなどをストックする体制を整備。火災保険の補償内容についても、検討を進めている。

(出典)経済産業省関東経済産業局株式会社「タイヨー:令和2年2月認定」

(2)台風による被害をきっかけに、計画を策定(カット野菜の製造販売業・千葉県)

カット野菜を製造し、外資系大型スーパーや近隣の大規模レジャー施設などに納品。令和元年度の台風第15号による停電で大量の商品を廃棄(約22トンの原材料、12トンの加工商品。被害総額約1600万円)。自然災害に対する備えが必要であると考え、計画策定に至った。

備えとして、営業時間中の電力を確保できる自家発電機を導入。災害時には近隣住民の避難先として活用できるよう受け入れ態勢を整え、今後は危機管理に向けたマニュアル作成も検討している。

(出典)経済産業省関東経済産業局株式会社「株式会社ダイヤベルツリーフーズ:令和2年7月認定」

(3)台風やゲリラ豪雨への懸念から、計画策定へ(道路貨物運送業・埼玉県)

大手デイリーメーカーやコンビニ・スーパーなどへ、食品を中心とした輸送・配送業務を行っている。近年、台風やゲリラ豪雨が頻発し、配送時にトラックが横転するような不安も出てきていることから、計画を策定した。

計画に基づき、災害用の携帯備蓄品を、運搬用の貨物車や営業車を含め、全ての車両に配備。本社および営業所にも水や簡易トイレの備蓄品と災害時の電力確保として自家発電機を購入した。さらに、配布しただけで終わるのではなく、定期点検を行う体制も整え、防災への関心を持ち続けることを目指している。

(出典)経済産業省関東経済産業局株式会社「マルタケ運輸株式会社:令和3年3月認定」

事業継続力強化計画の承認率は?通過のためのポイントは?

事業継続力強化計画の認定事業者数は、令和4年(2022年)5月末時点で42,837件です。

制度開始からほぼ3年ですから、単純計算すれば、1年あたり約14,000件の認定となります。

承認率は明らかになっていませんが、記載事項の要件を満たしていれば、承認されると考えられます。

ですから通過のためのポイントは、申請書類を丁寧につくることと言えるでしょう。中小企業庁「事業継続力強化計画策定の手引」を参照し、必要な記載事項を網羅するようにすることが大切です。

まとめ

大規模な災害や感染症が発生しても事業を継続することは、経営者のみならず、従業員の人生を支える取り組みです。事業継続力強化計画の策定を通して、会社の危機管理能力を高めていただきたいと思います。

支援制度には、申請の要件や定量目標などの細かいルールがあります。きちんと満たすように心がけることが大切です。気になることがあれば、ウェブサイトからお問い合わせください。