サプライチェーン補助金とは?医薬品・電子部品等の安定供給へ

医療用物資(医薬品・原薬など)の生産工場や倉庫を国内に新設したい、電子部品の海外工場を国内移転しようと考えている……。そんな事業者が活用したいのが「サプライチェーン対策のための国内投資促進事業費補助金」(以後、サプライチェーン補助金)です。

新型コロナウイルス感染拡大の影響により、日本国内ではマスクや消毒用アルコールなどが不足。中国など特定の国に生産拠点が集中することのリスクや、サプライチェーンの脆弱性が浮き彫りになりました。

そこでサプライチェーン強化に向けた取り組みとして始まったのが、サプライチェーン補助金です。概要や補助率などを紹介します。

サプライチェーン補助金とは?

サプライチェーン補助金とは、国内に生産拠点や物流施設整備・移転するために必要な支援を行う補助金です。

対象となるのは主に「生産拠点の集中度が高く、サプライチェーンの途絶による リスクが大きい重要な製品・部素材」と「感染症への対応や医療提供体制の確保のため に必要不可欠な物資」です。

日本ではコロナ以前、マスクや消毒用アルコール、自動車部品、パソコン部品など、多くを輸入に頼っていました。ところが新型コロナウイルス感染拡大により、サプライチェーンが途絶。輸入が滞り、市場では混乱が起きました。

そこで、こうした製品を国内生産する動きが加速。日本政府もサプライチェーン補助金により、国内での工場・倉庫新設や設備導入を後押ししています。

サプライチェーン補助金は最大100億円。医薬品や医療資材、自動車部品や半導体などの工場や倉庫などの新設や移転を考えている事業者には、おすすめの補助金です。

サプライチェーン補助金の公式サイト

令和3年(2021年)6月15日時点で公開されている公式サイトは以下です。

サプライチェーン対策のための国内投資促進事業費補助金

みずほリサーチ&テクノロジーズ:サプライチェーン対策のための国内投資促進事業

公募要領(第2次公募)

令和2年(2020年)に1次公募、令和3年(2021年)に2次公募(申請期限は5月7日)が行われました。

現時点で、3次公募以降のスケジュールは未定です。随時確認することをおすすめします。新たな動きがありましたら、当サイトでも紹介いたします。

以下では、2次公募の情報を解説します。

対象となる事業

サプライチェーン補助金と対象となる事業は、大きく分けて「A類型」と「B類型」の2種類があります。それぞれの概要と補助率を見てみましょう。

(1)A類型

生産拠点の集中度が高い製品・部素材の供給途絶リスク解消のための生産拠点整備

(出典)経済産業省「サプライチェーン対策のための国内投資促進事業費補助金」

サプライチェーンが途絶えることで、大きなリスクが発生する製品や部品などの生産拠点を国内につくる場合、その事業は対象となります。

例えばコロナ以前、自動車やパソコンの部品などは、中国からの輸入比率が高まっていました。ところが自動車は、小さなネジを含めて約3万個の部品からつくられており、一つでも足りなければ自動車は完成しません。

こうした状況を防ぐための事業を支援するのが「A類型」です。過去の採択例を見てみると、次のようなものが挙げられています。

例)
航空機エンジン部品、電子機器関連部素材、情報通信機器、リチウムイオンバッテリー、医療機器用部素材、半導体関連部素材、電子回路など

(2)B類型

国民が健康な生活を営む上で重要な製品・部素材の生産拠点等整備

(出典)経済産業省「サプライチェーン対策のための国内投資促進事業費補助金」

コロナ禍で実感したように、国民が健康な生活を営むためには、マスクや消毒用アルコール、医薬品などが欠かせません。こうした物資や原材料などの生産拠点を国内に整備する場合、その事業は対象となります。

過去の採択例を見てみると、次のようなものが挙げられています。

例)
サージカルマスク、マスク用部素材、消毒用アルコール、医療用ガウン、ディスポーザブル手袋、医薬品など

過去の採択例は、次の資料で確認することができます。ぜひ一度ご覧ください。

経済産業省「採択事業者一覧」

サプライチェーン補助金の補助額・補助率

サプライチェーン補助金の補助額・補助率は次の通りです。

(出典)2次 公募要領

この表を見て分かるのが、金額が大きくなるほど補助率が下がっているということ。大企業をも対象にしつつ、資金力の乏しい中小企業に対する配慮も見られます。

なお中小企業の定義は、中小企業法により、次のように定められています。

(出典)中小企業庁「中小企業・小規模企業者の定義」

資金面がネックとなって二の足を踏んでいた中小企業にとって、検討してみる価値のある補助金と言えるでしょう。

補助対象となる経費は?

サプライチェーン補助金の対象となる経費は、大きく分けて「建物取得費」「設備費」「システム購入費」の3種類です。

(出典)2次 公募要領

サプライチェーン補助金の採択率

令和2年(2020年)の1次公募に先立って行われた先行審査では、90件中57件が採択され、採択率は約63%となりました。

そして1次公募では、1670件の応募(先行審査分を除く)があり、採択されたのは146件。採択率8.7%と低い数字となりました。比べてみると、1次公募は厳しい結果であったことが分かります。

とはいえ、サプライチェーン安定化は重要な国策です。今後も、安定化を推進するための政策実施が見込まれます。申請する際に意識したいのが、

・該当する物資がいかに重要か?

・移転すればどのような効果が見込めるのか?

といった点。客観的データに基づいて説明することを心がければ、採択の可能性が高まることでしょう。

背景にある「米中間の新冷戦」「経済安全保障」   

日本政府がサプライチェーン安定化に本腰を入れるようになった直接のきっかけは、新型コロナウイルス感染症の感染拡大でした。ただしその背景には、経済安全保障の問題があります。

中国に対する懸念の高まり

近年中国に関して、多くの問題行動が指摘され、懸念が高まっています。

(1)外国企業の知的財産を侵害しかねない動きがみられる

中国は「中国共産党章程」第30条において、企業の内部に共産党組織を作るべきであると定めました。さらには、

会社において、中国共産党章程に基づき、党の組織を設立し、党活動を展開する。会社は党組織の活動に必要なものを提供すべきである。

「公司法(会社法)」第19条より

と定めています。ここでいう「会社」には、外資系企業も含まれます。さらに2017年には、国民に諜報活動への協力を義務づける「国家情報法」を施行しました。

社内の党組織および中国国民は、党の指示に従わねばなりません。よって、外国企業の情報を流出させる可能性があり、外国企業の知的財産を侵害しかねないと指摘がなされています。

(2)ビジネスを外交上の交渉材料として活用する傾向がある

中国には、日本製品の不買運動を行った歴史もあります。近年もオーストラリアとの関係悪化を受け、オーストラリア石炭に対して禁輸措置を講じました。このように外交上の交渉材料として、ビジネスを活用する傾向があります。

(3)他国の領土主権を侵害する動きを強めている

日本の尖閣諸島をはじめ、台湾や南シナ海のスプラトリー諸島など、他国の領土主権を侵害する動きを強めています。このように各国との領土問題も、火種としてくすぶっている状況です。

(4)人権侵害が指摘されている

言語や生活習慣が異なるウイグル人やチベット人、南モンゴル人などに対し、学校での授業を強制的に中国語にしたり、いわゆる“再教育施設”に強制収容したりしています。日本やアメリカを含む自由主義諸国は、こうした人権侵害を問題視し、人権侵害に加担している企業との取引を制約する動きが見られます。

デカップリングへの流れ

これらの結果、世界経済はアメリカと中国を基軸としたブロック化の傾向を強めつつあります。いわば「米中間の新冷戦」ともいえる様相を呈し、アメリカを筆頭とする自由主義諸国は、経済面において中国を切り離す「デカップリング」に少しずつ近づいているとの指摘があります。

そのような状況に輪をかけたのが、新型コロナウイルス感染症です。コロナ禍により各国は中国一極集中のリスクを再認識し、さらなる対策が進むことが予想されています。

まとめ

新型コロナウイルス感染拡大により、日本の経済は大きな打撃を受けました。日本政府は国内サプライチェーンの安定化を進めるため、今後も様々な支援策によって製造事業者の支援を進めていく方針を固めています。

3次公募以降のスケジュールは未定ですが、中小企業にとって後押しとなる補助金です。随時確認することをおすすめいたします。